こんにちは。咲くやこの花法律事務所の弁護士西川暢春です。
着服と横領の違いをご存じですか?
着服と横領はどちらも自分が管理している他人のものを自分のものにしてしまうことをいいますが、着服は一般的な用語として使われるのに対し、横領は法律上の用語として使用されます。このように使用される場面において違いがあります。
もし社内で着服行為が発生した場合は、すぐに弁護士に相談し、できるだけ早い段階から弁護士のサポートを受けることが大切です。
着服行為への対応で最も重要なのが、証拠集めや事情聴取といった初動対応です。この初動対応が適切にできるか否かがその後の被害回復や加害従業員の解雇の可否に大きく影響します。初動対応を自社のみで行ってしまった結果、証拠確保が不十分になってしまったり、本人への事情聴取で上手く自白を引き出せなかったりという結果になってしまう例が少なくありません。
この記事では、着服とは具体的にどのような行為なのか、また「着服」と「横領」、「横領」と「窃盗」など、似たような意味の用語の意味や違いのほか、着服がなぜ起こるのかをご説明します。そのうえで、社内で着服が判明した場合に取るべき対応についても解説します。
それでは見ていきましょう。
暢春
社内で従業員による着服・横領が発覚した場合は、できるだけ早く証拠の確保や本人への事情聴取などの対応をする必要があります。
しかし、自社のみで対応しようとすると、証拠確保が不十分になってしまったり、準備不足のまま事情聴取を行ってしまったりという問題が起こりがちです。その結果、充分な対応ができずに終わってしまい、その後の被害回復や犯人の解雇が困難になるパターンが多いのが実情です。
社内で着服・横領が発覚したときは自己流で対応する前に、まずは従業員による着服・横領の被害回復に精通した弁護士にご相談ください。咲くやこの花法律事務所でも着服・横領の被害に関するご相談について、企業向けに専門的なサポートを提供していますのでご利用ください。
▶参考情報:着服・横領に関するサポート内容については、以下をご参照ください。
ー この記事の目次
1.着服とは?
着服とは、「他人のものをひそかに盗んで自分のものにすること」をいいます。「着服」は法律用語ではなく、他人の金品などを盗んで自分のものにする行為全般を指す、一般的に使用される用語です。
1−1.着服に関する法律、罪の重さ
前述の通り、「着服」は一般用語であり、法律用語ではありません。そのため、着服について定める法律はありません。また、着服罪という罪はありません。着服に該当する罪としては、主に業務上横領罪や窃盗罪があげられます。これらの罪の法定刑は、業務上横領罪が10年以下の懲役(刑法第253条)、窃盗罪は10年以下の懲役、または50万円以下の罰金(刑法第235条)です。
1−2.企業でよくある着服行為の例
一般的に「着服」と言われる行為は、他人や会社のお金を不正な手段で自分のものにする行為であることがほとんどです。企業でよくある着服行為の具体例として以下の例があります。
- 顧客から預かったお金を着服する
- 会社の売上金の一部を着服する
- 会社の原材料を転売し、その代金を着服する
着服と似た言葉で、横領や窃盗がありますが、これらの違いについては、次の段落で詳しく解説していますので、順番に見ていきましょう。
2.「着服」と「横領」「窃盗」の意味と違い
「着服」と「横領」「窃盗」は類似した意味で使われますが、法律用語か一般用語かという違いがあります。
以下で、「着服」「横領」「窃盗」の意味をそれぞれ解説していきたいと思います。
2−1.「着服」の意味
まず、「着服」の意味は、上記でご説明した通り、「他人のものをひそかに盗んで自分のものにすること」です。着服は一般用語であり、横領事件に関するニュースなどでもよく着服という言葉が使われます。
2−2.「横領」の意味
横領とは、自己の占有する他人の物を不法に自分のものにすることをいいます。ここでいう「占有」とは物品を事実上支配していることをいいます。
着服と似た意味で使われますが、着服が一般用語であるのに対し、横領は法律用語(刑法上の用語)として使われています。刑法における「横領」は、「①単純横領罪、②業務上横領罪、③遺失物等横領罪」の3つに分けられます。
(1)単純横領罪(刑法第252条)
自己の占有する他人の物を横領した場合に成立します。
●例:友人から一時的に預かった旅行費用を自分のものにする。
(2)業務上横領罪(刑法第253条)
業務上自己の占有する他人の物を横領した場合に成立します。
●例:金銭管理担当者が顧客からの預かり金を私的に使用する。
▶参考情報:業務上横領罪について詳しくは、以下の記事で解説していますのでご参照ください。
(3)遺失物等横領罪(刑法第254条)
遺失物(落とし物)等の占有を離れた他人の物を横領した場合に成立します。俗に言う「ネコババ」や「置き引き」にあたります。
●例:道端に落ちている他人の財布を自分のものにする。
▶参考情報:刑法第252条
自己の占有する他人の物を横領した者は、五年以下の懲役に処する。
2 自己の物であっても、公務所から保管を命ぜられた場合において、これを横領した者も、前項と同様とする。
▶参考情報:刑法第253条
業務上自己の占有する他人の物を横領した者は、十年以下の懲役に処する。
▶参考情報:刑法第254条
遺失物、漂流物その他占有を離れた他人の物を横領した者は、一年以下の懲役又は十万円以下の罰金若しくは科料に処する。
・参照元:「刑法」の条文はこちら
(4)実際に起きた横領の具体例
次に、実際に起きた横領の事例を一つご紹介します。
●テレビ局の局長により24時間テレビ寄付金が横領された事例
2024年7月22日、日本海テレビの経営戦略局の元局長が、チャリティー番組「24時間テレビ」の寄付金137万円と、会社の資金470万円を着服したとして、業務上横領の疑いで逮捕された事例です。
この元局長は経理部長や総務局の局長などを歴任しており、会社の資金を管理する立場にありました。
警察の取り調べによると、元局長は自身の立場を利用し、社内で現金で保管されていた24時間テレビの寄付金の一部を持ち出し、自分の銀行口座に入金していたとのことです。
会社は2023年11月に、元局長を懲戒解雇しています。
この事案では、社内で保管されていた寄付金は元局長の管理下にあり、元局長が自由に動かせる状態にありました。報道されている内容が事実である場合、本件は、自己の占有下にある会社の金銭を自分のものにする行為となるため、元局長の行為は「横領」にあたると考えられます。
2−3.「窃盗」の意味
窃盗は、「他人の財物を窃取すること」をいいます(刑法第235条)。具体例としては店の商品を万引きする、他人のポケットから財布を盗むといった行為があげられます。
(1)横領と窃盗の違い
横領と窃盗の違いは、横領または窃取する対象物が「自己の占有下にあるか否か」です。ここでいう占有とは物を事実上支配することをいいます。横領は、自己の占有する他人の物を不法に自分のものにすることをいうのに対し、窃盗は他人の占有する財物を窃取することをいいます(刑法第235条)。
例えば、友人から一時的に時計を預かる場合、その時計は本来友人のものですが、預かっている間、時計は自分の手元にあるため、自己の占有下にあると言えます。そのため、友人から預かった時計を勝手に質屋に売り、そのお金を自分のものにするといった行為は、「自己の占有する他人の物を不法に自分のものにする行為」となり、横領に該当します。
一方で、友人の部屋に置いてある時計をこっそり持って帰るといった行為の場合、時計は友人の占有下にあり、自身の占有下にあるとは言えないため、窃盗に該当します。
(2)実際に起きた窃盗の具体例
次に、実際に起きた窃盗の事例を一つご紹介します。
●常陽銀行の行員による窃盗が行われた事例
2023年6~9月の間に3回にわたって支店長が管理する現金計約2000万円を盗み取ったとして、2024年10月16日、窃盗の疑いで常陽銀行の元行員の女性が逮捕されました。
銀行の調査によると、女性は窓口で預金業務に従事しており、営業時間中に虚偽の顧客の払い戻しを装い、窓口の出納機械から現金を盗んでいたことがわかりました。2022年7月から2023年10月までの間、同様の手法で窃盗を繰り返し、持ち出したお金は生活費や借入金返済にあてていたとのことです。
銀行は2023年11月にこの女性を懲戒解雇しています。
この事案では、銀行の現金は支店長の管理下にあり、犯人の女性の占有下にはありませんでした。報道されている内容が事実である場合、本件は自身の占有下にない銀行の現金を盗む行為となるため、女性の行為は「窃盗」にあたると考えられます。
3.着服はなぜ起こるのか?
次に、着服はなぜ起こるのかについてご説明します。
着服は、「(1)従業員側に着服をする強い動機があることと」、「(2)会社側において着服を防ぐための対策が取られていないこと」の2つの条件が揃ったときに起こる可能性が高くなります。
それぞれについて解説します。
3−1.従業員側に着服をする強い動機がある
一つ目は、従業員側に着服をする強い動機があることです。よくある着服の動機としては、以下のような例があげられます。
- 競馬やパチンコなどのギャンブル
- キャバクラやホストクラブでの多額の浪費
- 借金の返済
- スマホゲームへの課金
- 高級車やブランド品の購入
- FXなどのハイリスクな投資
- 残業代の不払いなど会社に対する不満についての埋め合わせ
長年真面目に勤めており、周囲から信頼されている従業員であっても、ギャンブルや投資などをきっかけに生活苦に陥り、つい魔が差して会社のお金に手を出してしまうといった事例も少なくありません。また、残業代の不払いや有給休暇が取れないといった問題が会社にある場合に、それに対する不満から、その不利益を埋め合わせするという感覚で横領・着服が行われる例もあります。
3−2.会社側に着服を防ぐための対策が取られていない
二つ目は、会社側に着服を防ぐための対策が取られていないことです。以下のような環境では、従業員が着服しようと思った時に簡単にできてしまうため、着服が起きる大きな原因となります。
- 金銭管理の担当者や在庫商品管理の担当者が長期間変わらない
- 経理担当者が一人だけで他の人によるチェックがされていない
- 小口現金や会社の預貯金を一人で出金、管理できる環境がある
特に中小企業などは、人手不足から経理担当者が一人だけしかいないことも多いですが、長期間同じ従業員が経理を担当する場合、着服を簡単にできてしまう状態になってしまいます。
経理担当に同じ従業員を長期間つかせないことや、他の人がチェックできるような仕組みにするなど、不正を防ぐための対策をとることが必要です。
4.「着服」と「横領」「窃盗」の時効
着服は一般用語で法律用語でなく、着服罪という罪はないことから、「着服についての刑事上の時効」というものは存在しません。着服は、横領罪や窃盗罪になることが多く、それについての時効が適用されることになります。そのため、以下では着服が横領にあたる場合と窃盗にあたる場合にわけてご説明します。
4−1.着服が横領にあたる場合の時効
まず、着服が横領にあたる場合の時効について解説します。横領は大きく「①業務上横領、②単純横領、③遺失物横領」の3つに分けられます。
(1)業務上横領の時効
業務上横領とは、「業務上自己の占有する他人の物を横領すること」を言います。典型的な例としては、金銭管理担当者が顧客からの預かり金を私的に使い込むといった事例があげられます。着服が業務上横領にあたる場合の時効は、以下の通りです。
▶参考:業務上横領の時効
起算点 | 時効期間 | ||
民事 | 不法行為に基づく損害賠償請求 | 損害及び加害者を知った時から | 3年 |
横領が発生した時から | 20年 | ||
債務不履行に基づく損害賠償請求 | 損害賠償請求権を行使できることを知った時から | 5年 | |
横領が発生した時から | 10年 | ||
刑事 | 刑事告訴により起訴を求める | 横領行為が終わった時から | 7年 |
(2)単純横領の時効
着服が単純横領にあたる場合も、民事での時効は上記の業務上横領と同じです。一方、着服が単純横領罪にあたる場合の刑事上の時効(公訴時効)は、横領行為が終わった時から5年です(刑事訴訟法第250条2項5号)。
(3)遺失物横領の時効
着服が遺失物横領罪にあたる場合の刑事上の時効(公訴時効)は、横領行為が終わった時から3年です(刑事訴訟法第250条2項6号)。
4−2.窃盗の時効
着服が窃盗にあたる場合の民事上の時効についても、被害者が損害及び加害者を知ったときから3年または窃盗が発生したときから20年です(民法第724条1項、2項)。また、着服が窃盗罪にあたる場合の刑事上の時効(公訴時効)は7年です(刑事訴訟法第250条2項4号)。
5.社内で着服が判明した場合に取るべき対応
次に、社内で従業員による着服が判明した場合に取るべき対応について解説します。着服が判明した場合に取るべき対応と流れは以下の通りです。
- (1)調査を行い、着服の証拠を確保する
- (2)本人に事情聴取を行う
- (3)返済方法を協議する(必要に応じて刑事告訴も検討する)
- (4)懲戒解雇・普通解雇・退職勧奨等により雇用を終了する
- (5)社内・社外への説明をする
- (6)再発防止策を立てる
上記の対応の中で最も重要なのは、「(2)本人への事情聴取」です。この事情聴取で本人に着服の事実を認めさせることが非常に大切です。本人に着服した事実を認めさせることができれば、その後の解雇と返済について本人に争われるリスクをなくすことができるため、対応をスムーズに進めることが可能になります。
そして、本人への事情聴取において着服の事実を認めさせるためには、「(1)調査を行い、着服の証拠を確保する」の段階で十分な証拠を確保し言い逃れができない状況を作っておくことが大切です。また、事情聴取のテクニック的な部分も重要になってきます。着服の発覚後の証拠収集が不十分だったり、事情聴取の方法が適切なものでなかった結果、本人に着服を認めさせることができなかった場合、返済を求めるためには訴訟が必要になり、問題が長期化します。そのような事態を避けるためには、社内で従業員の着服が発覚した際は、すぐに着服・横領事案の対応に精通した弁護士に相談することが重要です。
6.咲くやこの花法律事務所の着服・横領に関する解決実績
咲くやこの花法律事務所では、従業員や取締役による着服・横領の事案について、企業のご相談者から多くのご依頼をいただき、着服された金銭の回収を実現してきました。以下で、咲くやこの花法律事務所の実績の一部をご紹介していますのでご覧ください。
- 横領した従業員に損害賠償を求め、給料の差押えにより回収した成功事例
- EC通販会社の在庫品の横領事件、横領した取締役からの回収に成功した事例
- 横領の疑いがある従業員に対して、弁護士が調査を行って横領行為を認めさせ、退職させた解決事例
- 弁護士会照会を活用した調査をもとに6000万円超の横領を自白させ、支払いを誓約させた事例
上記の解決実績を含め実際に事件解決までサポートさせていただきました解決実績は、以下よりご覧ください。
▶参考情報:着服・横領事件に関する解決実績はこちら
7.社内で発生した着服トラブルに関して弁護士に相談したい被害企業の方はこちら
最後に、咲くやこの花法律事務所の弁護士による着服・横領被害に関するサポート内容をご紹介いたします。
▶参考情報:咲くやこの花法律事務所の着服・横領対応に強い弁護士への被害企業向け相談サービスの紹介動画も参考にご覧ください。
7−1.着服・横領被害に関するご相談
咲くやこの花法律事務所では、被害企業の着服・横領に関するご相談をお受けしています。
現金や在庫商品の着服・横領はもちろん、現金の盗難や不正な経費請求など、社内における不正行為全般についてのご相談を承っています。着服・横領等でお困りの方はぜひ一度咲くやこの花法律事務所にご相談ください。
- 現金の盗難に関するご相談
- 不正な経費請求に関するご相談
- 社内の商品や在庫の横領に関するご相談
- 架空発注の取引による詐欺や横領に関するご相談
- 時間外労働の偽装による詐欺に関するご相談
咲くやこの花法律事務所の着服・横領被害に強い弁護士への相談費用
●初回相談料:30分5,500円(税込)
7−2.従業員や役員による着服・横領への対応
咲くやこの花法律事務所では、着服・横領の被害企業側から、社内調査や本人への事情聴取、被害額の回収や犯人の解雇など、「5.社内で着服が判明した場合に取るべき対応」でご説明した対応全般のご依頼を承っています。
初期段階で誤った対応をしてしまうと、その後の被害回復や解雇が困難になるおそれがあるため、着服・横領が発覚した場合はすぐに弁護士にご相談いただくことが重要です。着服・横領被害を受けて対応にお困りの事業者の方は、咲くやこの花法律事務所にご相談ください。
7−3.顧問契約サービス
着服・横領被害が起きた際に迅速に対応することも大切ですが、それ以上に重要なことは、社内で着服・横領が起こりにくい体制を作ることです。社内で着服・横領が起こってしまった場合、犯人が悪いことは当然のことですが、社内体制自体を見直す必要もあります。
咲くやこの花法律事務所では、事業者向けに日頃から労務全般をサポートする顧問弁護士サービスを提供しており、横領事件の経験豊富な弁護士が、社内で横領が起こりにくい体制づくりについてもアドバイスします。また、万が一、着服・横領被害が起きた場合も、会社の実情に詳しい弁護士が即座に対応することで、被害を最小限に抑えることが可能です。
▶参考情報:咲くやこの花法律事務所の顧問弁護士サービスのご案内は以下をご参照ください。
8.まとめ
この記事では、「着服」「横領」「窃盗」などの用語の意味と実際にあった事例などについてご説明しました。
「着服」と「横領」は類似した意味で使用されます。この2つの違いは、着服が一般用語であるのに対し、横領は法律用語であるという点です。
また、「横領」と「窃盗」については、法的な意味が違います。横領が自己の占有する他人の物を不法に自分のものにすることであるのに対し、窃盗は他人の財物を窃取することを意味します(刑法第235条)。2つの違いは、横領または窃盗の対象物がもともと自己の占有下にあるか否かにあります。横領は、自己の占有する他人の物を不法に自分のものにすることをいうのに対し、窃盗は他人の占有する財物を窃取することをいいます(刑法第235条)。
社内での着服は、以下の2つの条件が揃ったときに起きやすくなります。
- 従業員側に着服をする強い動機がある
- 会社側に着服を防ぐための対策が取られていない
着服被害を未然に防ぐためには、定期的に担当者を入れ替える、社内のチェック体制を整備するなど、社内で着服をしづらい体制を整えることが必要です。
咲くやこの花法律事務所では多くの着服に関する事件について事業者からのご相談をお受けして解決してきた実績があります。着服被害でお困りの事業者様はぜひ一度ご相談ください。
記事作成日:2024年12月13日
記事作成弁護士:西川 暢春