こんにちは。咲くやこの花法律事務所の弁護士西川暢春です。
業務上横領について以下のような疑問・悩みを抱えていませんか。
- 業務上横領と背任はどう違うのか
- 業務上横領はどのくらいの懲役になるのか
- どのくらいで時効が成立するのか
- 従業員が横領をしている疑いがあるが証拠がない
- 横領された金銭の返還請求をしたい
- 横領した従業員に対する刑事告訴をしたい
社内の横領行為を放置すると、単に財産的な損害が生じるだけでなく、社内の規律がルーズになり同様の行為が社内ではびこるようになる危険があります。また、会社が適切な対応をとらないでいると、そのような会社の態度に嫌気がさした誠実な従業員が離職するなどの事態に至る危険があります。横領行為が発覚したときは早急に適切な対応をすることが重要です。
この記事では、どのような行為が業務上横領となるのか、着服や背任との違い、業務上横領の時効や刑罰、業務上横領が発生した場合に会社はどのように対応すべきか等について解説します。
ー この記事の目次
1.業務上横領とは?
業務上横領とは「業務上自己の占有する他人の物を横領した」場合に成立する犯罪です。業務上の理由で、他人から預かったり、管理を任されている他人の所有物を、自分の物にしたり、所有者の意に反して売却等の処分をしたりすることをいいます。業務上横領罪は、刑法第253条で規定されており、法定刑は10年以下の懲役です。
業務上横領の法律の条文は以下の通りです。
1−1.業務上横領罪の構成要件
構成要件とは、犯罪が成立するための条件のことです。
業務上横領罪が成立するためには、以下の4つの要件を満たしている必要があります。
- 1.業務性があること
- 2.委託信任関係に基づいて対象物を占有していること
- 3.対象物が他人の所有物であること
- 4.横領したこと
法律上、「業務」とは、「社会生活において反復・継続して行う事務のこと」を指します。会社の業務に限らず、例えば、PTAやボランティア団体、趣味のサークル等の活動も、業務上横領罪における「業務」に含まれます。
「委託信任関係に基づいて占有している状態」は、信頼関係に基づいて、他人の所有物を預かったり、管理したりしている状態のことです。
1−2.親告罪ではない
犯罪の被害者などが、警察や検察に対して犯人の処罰を求めることを「告訴」といい、告訴がなければ、起訴(刑事罰を決定するために検察官が裁判所に訴えを起こすこと)できない犯罪のことを「親告罪」といいます。
業務上横領罪は親告罪ではないので、告訴がなくても、検察官は起訴することができます。
しかし、業務上横領は組織の中で発生するものであるため、被害者や関係者が申告しなければ外部に知られることはほとんどありません。そのため、現実的には、被害者等からの告訴をもって捜査が始まるのが一般的です。
1−3.横領、着服や背任との違い
業務上横領罪に似た犯罪として、背任罪、窃盗罪等があります。一見、業務上横領罪に該当するように思える行為も、実は違う犯罪に該当する可能性があります。従業員に対する刑事告訴をする場合は、従業員の行為がどの犯罪にあたるのかをよく検討する必要があります。
(1)横領との違い
刑法では、業務上横領罪とは別に、横領罪(刑法第252条)が定められています。
横領罪と業務上横領罪の違いは、横領行為が、業務に関連して行われたかどうかという点です。業務に関連して行われた横領であれば「業務上横領」、そうでなければ「横領」となります。横領は、業務上横領と区別して「単純横領」と呼ぶことがあります。
また、法定刑は、単純横領が「5年以下の懲役」、業務上横領が「10年以下の懲役」で、業務上横領の方が重くなっています。
▶参考情報:刑法252条
(横領)
第二百五十二条自己の占有する他人の物を横領した者は、五年以下の懲役に処する。
2自己の物であっても、公務所から保管を命ぜられた場合において、これを横領した者も、前項と同様とする。
(2)背任との違い
背任罪は、他人のためにその事務を処理する者が、自己もしくは第三者の利益を図りまたは本人の損害を加える目的で、その任務に背く行為をし、本人に財産上の損害を加えることにより成立する犯罪です(刑法第247条)。企業秘密の漏洩や不正融資等が典型的です。
業務上横領罪は、「業務上預かっている他人の所有物(お金や物)を自分の物にしたり、勝手に処分する行為」に限定されているのに対し、背任罪は、「任された任務に背いて損害を与える行為」で、お金や物の被害に限らず、会社に財産上の損害があった場合にも成立します。
また、背任罪は、行為の目的が、「自分または第三者の利益を得ること、または本人に損害を加えること」である場合に成立します。自分が利益を得ることを目的とする場合に限らず、第三者に利益を得させたり、会社に損害を与えることを目的とした場合にも成立するという点がポイントです。
▶参考情報:刑法第247条
(背任)
第二百四十七条他人のためにその事務を処理する者が、自己若しくは第三者の利益を図り又は本人に損害を加える目的で、その任務に背く行為をし、本人に財産上の損害を加えたときは、五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
(3)窃盗との違い
窃盗罪は、他人の占有する財物(お金や物)を自分の物にすることにより成立するです(刑法第235条)。
「他人の物を自分の物にする」という点では業務上横領と共通していますが、窃盗と業務上横領は、対象物を自分が占有していたかどうかという点で異なります。
業務上、他人から預かったり、管理を任されていた他人の所有物を自分の物にした場合は「業務上横領」となり、他人が占有している他人の物を相手の意思に反して自分のものにした場合は「窃盗」になります。
(4)着服との違い
着服は、横領とほとんど同じで、「他人の物を自分の物にする行為」を指す言葉です。横領との違いは、法律用語であるか否かという点です。横領は法律用語ですが、着服は法律用語ではありません。
そのため、横領罪という犯罪はありますが、着服罪という犯罪はありません。着服は、刑法上は横領罪にあたることが多いといえます。
1−4.業務上横領のよくあるパターン
業務上横領の手口は様々ですが、典型的な事例をご紹介します。
パターン1:現金の抜き取り・口座からの送金
- 顧客から預かった現金を会社へ報告せずに着服する
- レジ担当者がレジ内の現金を抜き取って着服する
- 店長などが売上額を実際よりも少なく報告し、差額を着服する
パターン2:商品の横流し・転売
- 会社の商品・材料等を持ち出して転売して利益を得る
- 会社名義で商品を購入して仕入れ、第三者に転売する
- 会社で購入した郵便切手や金券を換金する
パターン3:架空請求・経費等の不正使用
- 会社の預金の管理者が架空の請求書を作成して預金を出金して横領する
- 会社担当者が経費として預かっている金銭を私的に使用する
パターン4:経理担当者による横領
- 経理担当者が会社名義の口座から自身の口座に送金して着服する
- 経理担当者が小口現金を抜き取る
- 経理担当者が預金を必要額より多めに引き出し、一部を着服する
2.業務上横領罪の刑罰
業務上横領罪の量刑は、業務と関係なく行われる横領(単純横領)に比べて、刑罰が重いのが特徴です。
2−1.法定刑は10年以下の懲役
業務上横領罪については、法律で10年以下の懲役刑が定められています(刑法第253条)。
懲役刑は、最短で1ヶ月、最長で20年と定められているので(刑法第12条1項)、業務上横領罪の懲役刑は、「1ヶ月以上10年以下」ということになります。
2−2.初犯でも被害金額が大きいと実刑になる可能性がある
一般的に、初犯の場合は、減刑されたり、執行猶予がついたりするケースが多いです。
しかし、初犯であれば必ず執行猶予がつくというわけではなく、被害金額が高額な場合で被害を弁償していない場合や、横領していた期間が長く常習性が高い場合等は、初犯でも実刑となる可能性があります。
参考例:津地方裁判所判決令和5年10月13日
一例として、津地方裁判所判決令和5年10月13日は、経理課長として会社の経理業務全般を統括し、預金口座等の管理等の業務を担当していた従業員が、会社の口座から約4年弱で7640万円あまりを横領した事案です。
この事案の場合、従業員は初犯で前科前歴はありませんでしたが、金額が約7640万円と高額であることや、横領の発覚を免れるために会計帳簿に虚偽の仕訳を行っていたこと等から、刑事責任は相当に重いとして、執行猶予なしの懲役4年と判断されました。
量刑は、様々な要素を総合的に考慮して判断されます。量刑の決定の際に考慮される要素としては、以下のようなものがあります。
- 前科前歴があるかどうか(初犯かどうか)
- 被害金額
- 横領をしていた期間・頻度
- 犯行の動機
- 被害弁償をしているかどうか
- 謝罪をしているか、反省の態度を示しているか
- 更正を支援してくれる人(家族、親戚、友人等)がいるか 等
2−3.少額でも起訴されるのか?
被害金額が極めて少額で、弁償が完了し、示談が成立している場合や、被害者の処罰感情が低い場合等は、不起訴処分となる可能性もあります。ただし、被害金額が少額であれば、必ず不起訴になるとは言い切れません。
過去の裁判例では、以下のとおり被害金額が比較的少額であっても起訴され、有罪判決を受けているケースがあります。
●ケース1:被害金額8万8790円
→懲役1年6か月、執行猶予3年
●ケース2:被害金額5万5478円
→懲役1年6か月、執行猶予3年
3.業務上横領の時効
民事上で損害賠償請求(返還請求)をする場合の時効は3~20年、刑事告訴によって刑事上の責任を問う場合の時効は7年です。
3−1.民事の場合
業務上横領の被害にあったとき、会社は従業員に対して損害賠償請求をすることができます。損害賠償請求の時効期間は以下のとおりです。
(1)不法行為(故意または過失によって会社に損害を与えたこと)に基づく損害賠償請求
民法724条により以下のいずれか早い方になります。
- 損害及び加害者を知ったときから3年
- 横領が発生したときから20年
(2)債務不履行(企業と従業員の雇用契約に違反したこと)に基づく損害賠償請求
民法166条1項により以下のいずれか早い方になります。
- 損害賠償請求権を行使できることを知ったときから5年
- 横領が発生したときから10年
3−2.刑事告訴の場合
民事上で損害賠償請求をするのとは別に、刑事告訴をして、加害者の刑事上の責任を問うことも可能です。刑事告訴の場合の時効期間は、「横領行為が終わったときから7年」となります。
4.業務上横領罪の判例
ここからは、どのような手口で業務上横領が行われ、どのくらいの被害金額で、どのような量刑になったのか、実際の裁判例をご紹介します。
4−1.釧路地方裁判所判決令和5年6月20日
- 被害金額:1億2000万円
- 量刑:懲役5年
信用金庫に設置されたATM内の現金の管理等を担当していた従業員が、およそ半年間で1億2000万円を横領した事案です。
横領の発覚後、従業員は約1972万円を弁償しましたが、弁償してもなお、信用金庫に生じた損害は多大であることや、横領の動機はギャンブルであること等からすると、従業員が反省していることや前科前歴がないこと等を考慮しても、懲役5年の実刑が相当と判断されました。
4−2.山形地方裁判所判決令和4年8月23日
- 被害金額:1400万円
- 量刑:懲役3年(執行猶予5年)
会社の代表取締役が、私的に使用する目的で、会社の貯金1400万円を会社名義の口座から個人名義の口座へ送金し、横領した事案です。
横領の発覚後、代表取締役は820万6000万あまりを弁償し、今後も残額を弁償することを誓約しました。また、代表取締役には前科がなく、幼い子がいること等が考慮され、懲役3年、執行猶予5年と判断されました。
4−3.名古屋地方裁判所判決令和3年4月15日
- 被害金額:約10億5570万円
- 量刑:懲役10年
会社の経理担当者として会社名義の預金口座の管理等をしていた従業員が、約6年間にわたって、合計約10億5570万円を着服横領した事案です。
横領の発覚後、従業員は117万円余りを弁済したものの被害回復には遠く及ばず、被害額が巨額で、犯行の期間が長く、常習性が極めて高い点で悪質として、本人が謝罪や反省の態度を示していることや、家族が更正支援を約束していること、前科前歴がないことを考慮したとしても法定刑の上限を下回る事情は見いだせないとして、懲役10年の実刑が相当と判断しました。
4−4.横浜地方裁判所横須賀支部判決令和元年12月11日
- 被害金額:120万1500円
- 量刑:懲役3年(執行猶予5年)
市の職員が知り合いのデザイン業者に架空請求をさせ、120万1500円を着服した事案です。
裁判所は、横領の動機は借入金の返済や馬券購入、高級クラブでの飲食等であり同情すべき余地はなく、発覚後にメールデータの削除等の隠滅工作をしていること等からすると強い非難を免れないとしながらも、職員が被害額全額を実質的に弁償していることや、懲戒免職されて社会的制裁を受けていること、更正を支援する者がいること、前科前歴がないこと等を考慮し、懲役3年、執行猶予5年が相当と判断しました。
4−5.大分地方裁判所判決平成29年2月3日
- 被害金額:1841万1874円
- 量刑:懲役3年6月
医薬品の購入および管理等を担当していた病院の事務長が、約2年半にわたり、水増し発注した医薬品を横流しして売買代金を横領したこと、及び、他院に異動した後も医薬品を窃取し、業者に売却するなどして、約1841万円を横領した事案です。
裁判所は、被害金額が高額であること、被害弁償が全くなされていないこと、犯行は他者の指示に従って行ったことであるなどと弁解をし責任を転嫁しようとしていることなどからすると、前科前歴がないことや父親等が監督を約束していること等を考慮しても懲役3年6月の実刑が相当と判断しました。
5.業務上横領が起きたときの会社の対応
従業員や役員などによる業務上横領が起こったときに会社がやるべきことには、事実関係の調査、損害賠償請求、解雇などの懲戒処分、刑事告訴、再発防止対策等があります。
▶参考情報:会社で業務上横領が発生した際の対応については、以下の解説動画も参考にご覧ください。
5−1.事情聴取や事実確認
業務上横領が発生した場合に最も重要なことは、本人に横領を認めさせることです。返済請求をするにしても、刑事告訴をするにしても、本人が認めているかどうかでその後の労力やかかる時間が大きく変わります。
本人に横領を認めさせるためには、証拠の確保が重要です。証拠がない状態で問い詰めても、素直に横領を認めることはほぼありません。それどころか、証拠を隠滅されるリスクがあります。
本人が認めず、十分な証拠がない状態では、横領された金銭の返済請求をしても認められず裁判で敗訴してしまったり、横領を理由に解雇しても証拠がないため不当解雇になってしまったり、刑事告訴しても証拠がないため処罰してもらえない等の不都合が生じます。
まずは、本人に気付かれないように調査を行い、証拠を確保して、言い逃れができない状態にしてから本人に事情聴取をするべきです。
本人が横領を認めた場合は、金額や横領の時期、手口などを特定したうえで「横領を認めること」「返済を誓約すること」を記載した書面に署名させて、証拠として残しておくことも重要です。
暢春
業務上横領に関して「横領の疑いがあるが決定的な証拠がない」というご相談をよくいただきます。確実な証拠を確保することが原則ではありますが、様々な事情で、それが叶わないケースもあります。その場合は、本人に犯行を自白させることが重要になります。
具体的には、本人と面談を行い、不審な支出や所在がわからなくなっている金銭について説明を求め、本人が不合理な説明をしたところで、説明と矛盾する資料を示して追及する等の方法で、犯行の自白を促します。 しかし、一度問いただして犯行を否認されると、本人の態度が硬化して自白を引き出すのが難しくなってしまったり、証拠隠滅や逃亡につながったりするリスクがあります。そのため、本人に対する事情聴取は十分な準備をして臨むことが重要です。また、事情聴取をこの種の事案に精通した弁護士に依頼することが有益です。横領の疑いがあるが証拠がない、証拠の集め方がわからないとお考えの場合は、まずは咲くやこの花法律事務所の弁護士にご相談ください。
▶参考情報:社内で横領が発覚した際の証拠の確保については、以下の解説動画も参考にご覧ください。
5−2.返済請求・損害賠償請求
横領した金銭の返済請求には、大きく分けて、話し合いによる返済交渉をする方法と、民事訴訟を提起する方法があります。
訴訟となると、事案が長期化する恐れがあり、労力的な負担も大きいので、まずは話し合いによる返済交渉をするのが一般的です。本人に返済能力がない場合、身元保証書を取得していれば、身元保証人にも請求できる可能性があります。
返済について合意ができた場合は、必ず、支払誓約書や債務弁済契約書等を作成し、本人に署名押印をさせることが必要です。
確実に返済させるために連帯保証人を立てさせることができればベストです。さらに強制執行認諾約款付公正証書を作成することで返済がされないときはいつでも差し押さえなどの対応ができるようにしておくべきです。
なお、横領による損害賠償義務は、自己破産をしてもなくなりません。
▶参考情報:横領された金銭の返還請求については、以下の解説動画も参考にご覧ください。
5−3.懲戒処分・懲戒解雇
社内でどのような処分をするかは、被害金額や犯行の態様等の要素を考慮して決定することになりますが、基本的には懲戒解雇を検討することになります。
業務上横領は、犯罪行為であり、会社の信頼を裏切る重大な不正行為なので、被害金額が少額でも解雇が認められるケースが多いです。
懲戒解雇の際は、「①横領の証拠を十分にそろえること」、「②適切な手順を踏んで処分すること」の2点に注意する必要があります。
証拠が不十分な状態で解雇すると、後になって従業員から不当解雇の訴えを起こされ、逆に会社が多額の支払いを命じられる可能性もあります。実際の裁判でも、横領を理由とする懲戒解雇が、証拠が不十分であることを理由に無効と判断され、会社が従業員の復職と多額の支払いを命じられているケースが多数あります(東京地方裁判所判決平成22年9月7日など)。
また、就業規則で定められた手順で行うこと、本人に弁明の機会を与えることも重要です。
▶参考情報:業務上横領をした従業員の懲戒解雇については、以下の解説動画も参考にご覧ください。
5−4.刑事告訴
業務上横領の事案では、刑事告訴をしていないのに警察の捜査が始まることはまずありません。そのため、本人に刑事罰を受けさせたいと考える場合は、刑事告訴をする必要があります。
刑事告訴は、一般的に以下の流れで行われます。
- 1.告訴状を作成する
- 2.警察に告訴状を提出する
- 3.警察で捜査が行われる
- 4.必要に応じて加害者が逮捕される
- 5.検察庁に送致される
- 6.検察庁で捜査が行われる
- 7.検察庁が起訴・不起訴を決定する
- 8.刑事裁判が行われる
会社がやることは、弁護士に依頼して十分に整理された告訴状を作成・提出することと、証拠の提出、警察や検察庁の捜査への協力などです。
警察や検察庁の捜査では、会社の代表者や担当者への事情聴取が行われるのが一般的で、聴取のために警察へ出向く必要があります。刑事告訴してから逮捕までの期間は数か月かかることが多く、1年以上かかることもあります。
(1)警察が動いてくれない場合の対応について
警察に告訴状を提出しても、告訴状が受理されなかったり、思うように捜査が進まないケースがあります。その理由としてまず考えられるのは、告訴状や証拠の不備です。
警察が捜査をするためには、告訴状に必要事項がきちんと記載されており、添付資料や証拠が揃っていることが必要です。必要な記載や資料が欠けていると、警察としても捜査のしようがなくなってしまいます。まずは、告訴状に必要事項が記載されているか、添付資料に不足がないか、証拠が揃っているかを見直しましょう。
告訴状に不備がなく、証拠も揃っているのに捜査が進まないときは、他の事件で多忙であるなどの理由で捜査が後回しにされている可能性があります。そのような場合は、こまめに進捗確認をし、迅速な捜査を望んでいることを警察に理解してもらうことが必要です。
暢春
刑事告訴され、実刑となると、加害者は服役期間中働くことができません。加害者に一括で弁償する資力がない場合、分割での弁償を検討することになりますが、服役によって収入が断たれると、今後の収入から弁償を受けることが難しくなってしまいます。
そのため、刑事罰を受けさせることと、横領金の回収のどちらを優先するかは、あらかじめよく検討しておく必要があります。
▶参考情報:業務上横領における刑事告訴については、以下の解説動画も参考にご覧ください。
5−5.会社の責任について
業務上横領には、従業員が、取引先や顧客の金銭・物品を横領・着服するパターンもあります。
その場合、使用者責任(民法第715条)によって、会社も従業員と連帯して、被害者への損害賠償責任を負う可能性があるので注意が必要です。
▶参考情報:使用者責任について詳しくは以下の記事をご参照ください。
ただし、会社は従業員に対して、会社が被害者に支払った賠償金を請求することが可能です。これを「求償」といいます(民法第715条3項)。
裁判例でも、業務上横領等の故意の加害行為については、従業員への求償が認められるケースが多くなっています(東京地方裁判所判決平成28年4月28日等)。
5−6.再発防止のための対策をする
業務上横領が発生してしまった場合は、再発防止のための対策をすることも重要です。
業務分担が偏っていたり、チェック体制が不十分だったりすると、業務上横領が発生するリスクが高くなります。従業員が、「横領してもバレないのではないか」と考えてしまうような環境・体制の改善が必要です。
会社ができる予防策には、以下のようなものがあります。
- 入出金は履歴が残る方法で行う
- 入出金は上長の承認が必要というルールにする
- 口座の残高や取引履歴をこまめに確認し、不正な送金や不自然な出金がないかチェックする
- 経理手続きや発注業務等は2名以上でチェックする
- 経理担当者や発注担当者をローテーションする
6.業務上横領に関して弁護士に相談したい被害企業の方はこちら
咲くやこの花法律事務所では、企業側の立場で、業務上横領に関するトラブルについてご相談をお受けしております。咲くやこの花法律事務所の弁護士によるサポート内容をご紹介します。
▶参考情報:咲くやこの花法律事務所の業務上横領に強い弁護士への被害企業向け相談サービスの紹介動画も参考にご覧ください。
6−1.業務上横領が発生したときの対応に関するご相談
咲くやこの花法律事務所では、業務上横領について、以下のようなご相談をお受けしております。
- 横領の疑いがある従業員の調査
- 横領をした従業員に対する懲戒処分・懲戒解雇
- 刑事告訴
- 横領された金銭の返還請求・損害賠償請求
- 従業員が横領によって取引先へ損害を与えた場合の対応
横領の疑いが生じた場合は、いち早く、確実な証拠を確保し、本人に横領を認めさせることが重要です。証拠が不十分な状態では、その後の返還請求や懲戒解雇、刑事告訴などの手続きに様々な不都合が生じる可能性が高くなります。
また、横領する従業員は、借金や生活困窮、浪費、ギャンブル等の問題を抱えているケースが多く、横領された金銭を請求しようにも、返済するだけの資力がないことが少なくありません。
そのような場合は、不動産や生命保険等の財産の差し押さえや、身元保証人への請求等の方法での回収を検討することになります。
本人に刑事罰を受けさせることを希望する場合は、刑事告訴を検討することになりますが、まず警察に告訴状を受理してもらうことに一定のハードルがあります。証拠に基づき整理された告訴状を作成することが重要です。
咲くやこの花法律事務所では、このような業務上横領のトラブルにまつわるご相談を数多くお受けし、解決してきました。横領トラブルでお困りの方は、まずは一度ご相談ください。
咲くやこの花法律事務所の労働問題に強い弁護士への相談費用
●初回相談料:30分5000円+税
▶参考情報:咲くやこの花法律事務所の弁護士によるサポート内容について詳しくは、以下をご覧ください。
6−2.顧問弁護士サービスのご案内
咲くやこの花法律事務所では、横領トラブルの対応や予防はもちろん、その他の企業経営にまつわる法務をサポートするための顧問弁護士サービスを提供しています。
企業経営に関して何かトラブルが発生したとき、初期段階から弁護士に相談し、専門的な助言を受けて対応することで、問題を早期に、そしてより有利に解決することができる可能性が高くなります。
また、日頃からこまめに顧問弁護士に相談いただき、社内体制の管理を整備していくことで、トラブルの発生自体を予防することができます。
咲くやこの花法律事務所では、親切丁寧な弁護士が、迅速なレスポンスで対応してトラブルの予防、そしてトラブルが発生してしまった場合の早期解決に尽力します。
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▶参考情報:咲くやこの花法律事務所の顧問弁護士サービスのご案内は以下をご参照ください。
7.まとめ
この記事では、業務上横領について解説しました。
業務上横領とは、業務に関連して、他人から預かったり、管理を任されている他人の所有物を、自分の物にしたり、売却したりする行為のことです。
レジ担当者がレジ内の現金を抜き取って着服したり、経理担当者が会社名義の口座から自身の口座に不正に送金したり、商品の管理者が会社の商品を持ち出して転売する等が典型例です。
業務上横領罪は、10年以下の懲役刑が定められています。量刑は、初犯かどうか、被害金額、頻度や期間、回数、被害弁償をしているか、犯行の動機、謝罪の有無などの様々な要素を考慮して決定されます。
業務上横領の時効は、民事上で損害賠償請求(返還請求)をする場合は3~20年、刑事告訴によって刑事上の責任を問う場合は7年です。
社内で業務上横領が発生したときに会社がやるべきことは、事実関係の調査、損害賠償請求、解雇などの懲戒処分、刑事告訴、再発防止対策等です。
業務上横領が発生した場合、本人に横領を認めさせることと十分な証拠を確保することが重要です。返済請求をするにしても、刑事告訴をするにしても、本人を懲戒解雇するにしても、本人が認めているかどうか、十分な証拠があるかどうかで、かかる労力や期間が大きく変わります。
咲くやこの花法律事務所では、社内で業務上横領が発生した場面における企業側の対応について専門的なサポートを提供してきました。業務上横領の疑いがあるが証拠がない、横領した従業員に対して返還請求をしたい、刑事告訴をしたい等、業務上横領のトラブルでお悩みの方は、ぜひ咲くやこの花法律事務所へご相談ください。
記事作成日:2024年11月12日
記事作成弁護士:西川 暢春