こんにちは。弁護士法人咲くやこの花法律事務所の弁護士西川暢春です。
従業員のカラ出張についてお困りではありませんか?

カラ出張を見逃したまま放置してしまうと、会社の規律や秩序が乱れ、「少しくらいの不正なら許される」という誤った認識が社内に広まる危険があります。その結果、他の従業員のモラル低下や不正の連鎖を招きかねません。また、経費として計上していた出張費が税務調査で否認され、税金の負担が増加するという問題も生じます。

カラ出張が疑われる場合は早急に調査を行い、適切な対応をすることが必要です。

また、カラ出張が明らかになった場合に、どのような処分をするかについても慎重な検討が必要です。出張をめぐる交通費や宿泊費の不正な請求を理由に行われた懲戒解雇について、無効と判断して、会社に合計約1800万円もの支払いを命じた例もあります(札幌高等裁判所判決令和3年11月17日)。

この記事では、カラ出張のよくある事例や発覚するケース、発覚した場合に取るべき対応などについて詳しく解説します。また、カラ出張を防ぐための対策もあわせて解説します。この記事を読めば、カラ出張が起きた場合にどのように対応すればよいかを理解でき、自信をもって適切な対応が取れるようになります。

それでは見ていきましょう。

 

「弁護士 西川 暢春」からのコメント弁護士西川
暢春
弁護士西川暢春のワンポイント解説

カラ出張が発覚した場合の対応で最も重要なのは、初期段階での証拠収集です。

証拠集めが不十分だと、その後の本人からの事情聴取や懲戒処分、損害賠償請求の際に支障が出てしまいます。証拠集めの段階から弁護士に依頼することにより、弁護士会照会と呼ばれる弁護士のみが利用できる調査手段を活用することができます。

自社の判断で証拠が十分だと考えていても実際にはまだやるべき調査があるということも少なくないため、カラ出張が発覚した場合は、初期段階で弁護士に相談・依頼することが重要です。証拠収集の段階から弁護士に依頼することで、その後の懲戒処分や裁判に発展するケースも見据えた適切な対応をすることができます。

咲くやこの花法律事務所では、企業側の立場で、カラ出張をはじめとする従業員の不正行為について多くのご相談をお受けし、解決してきました。カラ出張をした従業員への対応でお悩みの事業者様は、早めにご相談ください。弁護士が、事務所の経験や実績をもとに最適なサポートを提供いたします。

咲くやこの花法律事務所のサービス内容や実績等については以下をご参照ください。

 

▶参考情報:業務上横領に関する弁護士によるサポートはこちら(被害企業向け)

▶参考情報:業務上横領事件に関する解決実績はこちら

 

業務上横領に関するお問い合わせ業務上横領に関するお問い合わせ

 

1.カラ出張とは?

カラ出張とは?

カラ出張とは、実際には出張していないにもかかわらず、出張したと偽って架空の交通費や宿泊費などの費用あるいは会社の規程により定められた出張旅費等を会社から不正に受給する行為のことです。例えば、私的な旅行を出張だと偽って経費として請求したり、実際に出張がある場合でも交通費や宿泊費を水増しして請求するケースなどが典型です。こうした不正は会社に直接的な損害を与えます。

会社は、出張について事前の承認を要することを明確にし、出張の必要性を検証することができる仕組みを整備することが必要です。また、領収書の提出を義務化し、不正を未然に防止する体制を整えることが重要です。

 

2.カラ出張のよくある事例

カラ出張のよくある事例

次に、カラ出張のよくある事例についてご紹介します。

 

2−1.出張自体が存在しないケース

そもそも出張に行っていないにもかかわらず、出張に行ったと偽って交通費や宿泊費等の経費を請求するケースです。なかでも悪質な場合は、領収書を偽造して出張に行ったように見せかけるといったケースもあります。

また、私的な旅行であるにもかかわらず、業務上必要な出張であったとして、会社に経費や旅費を請求するケースも存在します。出張と申告しながら、実は社員同士の不倫旅行であったことが発覚する例もあります。

 

2−2.交通費や宿泊費を水増し請求するケース

実際には在来線やバスなどで安く済ませたにもかかわらず、新幹線や飛行機などの高額な交通費を費用として請求したり、実際に宿泊したホテルよりも値段の高いホテルに宿泊したと嘘をついて、高額な宿泊費を請求するケースです。

また、会社が交通機関やホテルを事前に手配している場合でも、予約した新幹線のチケットなどを払い戻して自身で安いチケットを購入し、その差額を不正に得たり、会社が予約したホテルをキャンセルして自身で安いホテルを利用し、その差額を得るといった手口もあります。

 

具体例

  • 新幹線や飛行機の予約をキャンセルし、高速バスや在来線を利用して差額を得る
  • 新幹線の指定席券を自由席券に変更し、その差額を得る
  • ホテルを予約し一旦決済を行い、領収書を取得した後に予約をキャンセルし、安いホテルに変更して差額を取得する

 

2−3.私的な飲食費等を出張中の接待交際費として計上するケース

本来経費としては認められていない私的な飲食費を、出張中の接待交際費として計上するケースです。従業員自身の私的な飲食費についても、会社によっては経費として認めているところもありますが、会社側が認めていない場合は不正な申請となります。

 

具体例

  • 出張先での友人との食事代を接待交際費として申請する
  • 従業員自身の飲食費やおみやげ代を接待交際費として申請する

 

3.カラ出張は業務上横領や詐欺等の犯罪に該当する

カラ出張は業務上横領や詐欺等の犯罪に該当する

カラ出張は主に以下の3つの犯罪に該当する可能性があります。

 

  • (1)業務上横領罪(刑法253条)
  • (2)詐欺罪(刑法第246条)
  • (3)私文書偽造等罪(刑法第159条)、偽造私文書等行使罪(刑法161条)

 

以下でそれぞれ詳しく説明します。

 

3−1.業務上横領罪(刑法253条)

業務上横領罪とは、「業務上自己の占有する他人の物を横領する」犯罪のことです。

法定刑は10年以下の拘禁刑と定められています(※「懲役刑」は刑法の改正で廃止され、2025年6月1日から「拘禁刑」となりました。)

カラ出張の場合は、出張費用として事前に会社から預かっておいた経費を私用の外出に利用するといった行為は、業務上横領罪に該当する可能性があります。

 

▶参考情報:刑法第253条

業務上自己の占有する他人の物を横領した者は、十年以下の拘禁刑に処する。

・参照元:「刑法」の条文はこちら

 

参考

▶参考情報:業務上横領については以下の記事で詳しく解説していますのでご参照ください。

業務上横領とは?構成要件や刑罰、会社の対応をわかりやすく解説

 

3−2.詐欺罪(刑法第246条)

詐欺罪とは、「人を欺いて財物や財産上不法の利益を得る」犯罪のことです。

法定刑は業務上横領罪と同様、10年以下の拘禁刑と定められています。

実際には出張に行っていないにもかかわらず、出張に行ったと嘘をついて経費を請求するといった行為は、詐欺罪に該当する可能性があります。

 

▶参考情報:刑法第246条

人を欺いて財物を交付させた者は、十年以下の拘禁刑に処する。
2 前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。

・参照元:「刑法」の条文はこちら

 

3−3.私文書偽造等罪(刑法第159条)、偽造私文書等行使罪(刑法161条)

私文書偽造等罪は、「私文書(権利、義務若しくは事実証明に関する文書)を権限がないにもかかわらず行使する目的で作成する犯罪のことです。代表的な例としては、契約書を偽造したり、領収書の金額を改ざんするなどといった行為が挙げられます。

法定刑は3か月以上5年以下の拘禁刑と定められています。

カラ出張の偽装のために架空の領収書を作成するなどといった行為は私文書偽造罪や私文書変造罪に、偽造した領収書を提出して経費を不正に申告する行為は偽造私文書等行使罪にあたります。

 

▶参考情報:刑法第159条

行使の目的で、次の各号に掲げるいずれかの行為をした者は、三月以上五年以下の拘禁刑に処する。
一 他人の印章等を使用して権利、義務若しくは事実証明に関する文書等を偽造し、又は偽造した他人の印章等を使用して権利、義務若しくは事実証明に関する文書等を偽造する行為
二 他人の電磁的記録印章等を使用して権利、義務若しくは事実証明に関する電磁的記録文書等を偽造し、又は偽造した他人の電磁的記録印章等を使用して権利、義務若しくは事実証明に関する電磁的記録文書等を偽造する行為
2 他人が押印し若しくは署名した権利、義務若しくは事実証明に関する文書等又は他人が電磁的記録印章等を使用して作成した権利、義務若しくは事実証明に関する電磁的記録文書等を変造した者も、前項と同様とする。
3 前二項に規定するもののほか、権利、義務又は事実証明に関する文書等又は電磁的記録文書等を偽造し、又は変造した者は、一年以下の拘禁刑又は十万円以下の罰金に処する。

 

▶参考情報:刑法第161条

前二条の文書等又は電磁的記録文書等を行使した者は、その文書等若しくは電磁的記録文書等を偽造し、若しくは変造し、又は虚偽の記載若しくは記録をした者と同一の刑に処する。
2 前項の罪の未遂は、罰する。

・参照元:「刑法」の条文はこちら

 

4.カラ出張はなぜばれる?発覚する主なケース

カラ出張はなぜばれる?発覚する主なケース

次に、カラ出張がばれて発覚する典型的なパターンは、主に以下の3つです。

 

  • (1)営業成績や具体的な報告が伴っていない
  • (2)経費の申告内容と証拠書類の内容に食い違いがある
  • (3)税務調査

 

以下でそれぞれ詳しくご説明します。

 

4−1.営業成績や具体的な報告が伴っていない

頻繁に営業先へ出張に行っているとして経費請求しているにもかかわらず営業成績が伴わなかったり、出張先で商談を行ったとして経費請求しているのに具体的な報告がされていないことをきっかけにカラ出張が発覚するケースです。

上記のような不審な点があれば、まずは取引先や訪問先に確認して、実際に訪問があったか否かを確認することが必要です。

また、普段担当している営業担当者とは別の従業員が営業先と話す機会をもったことをきっかけに、営業担当者が実は報告していた出張に行っていなかったことが発覚することもあります。

 

4−2.経費の申告内容と証拠書類の内容に食い違いがある

例えば、従業員が「出張のため」として新幹線代を交通費として申請したものの、後日調査すると、ICカードの利用履歴には新幹線の乗車記録がなかったというように、経費の申告内容と証拠の食い違いからカラ出張が発覚するケースです。

上記のような交通系ICカードのほか、領収書、クレジットカード明細の記録などがカラ出張の調査の際に有力な資料となります。

 

「弁護士 西川 暢春」からのコメント弁護士西川
暢春
弁護士西川暢春のワンポイント解説

実際に咲くやこの花法律事務所にご相談いただいた事例の中には、予約したホテルを事前にクレジット決済した後、キャンセルして安いホテルを予約し、会社には最初の決済書類を提出してホテル代の実費精算を請求し、実際のホテル代との差額を着服していたというものがありました。

この事案では、別件で同時期に出張していた経理部門の同僚が、自分の宿泊しているホテルでその従業員を見かけたにもかかわらず、当該従業員が宿泊費を請求したホテルと違うホテルの宿泊費を請求していることに気が付き、不正請求が発覚しました。最終的に会社側はこの従業員に退職勧奨を行い、合意の上で雇用契約を終了させました。

 

4−3.税務調査

会社に税務調査が入った際に、旅費交通費についてカラ出張ではないかと指摘されて初めて発覚するケースもあります。

税務調査で発覚した場合は、本来経費とすべきでないものを経費として計上していたとみなされ、会社に対しても延滞税等のペナルティが課されてしまいます。この点については下記の「7.税務調査などによりカラ出張が発覚した場合に会社が負うリスク」で詳しく解説します。

 

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弁護士西川暢春のワンポイント解説

カラ出張が社内で発覚した場合、不正をしているのはその従業員だけとは限りません。他の従業員についてもカラ出張がなかったかどうか調査することが大切です。このような社内調査の結果、複数の従業員の不正が発覚する例もあります。また、そのような調査を行うことが、不正防止にもつながります。

 

5.社員のカラ出張が発覚した場合に取るべき対応や調査方法

社員のカラ出張が発覚した場合に取るべき対応や調査方法

社員のカラ出張が発覚した場合に企業が取るべき対応は、主に以下の通りです。

 

  • (1)事実関係の調査と証拠の確保
  • (2)本人と面談し、事情聴取を行う
  • (3)賠償方法を協議する
  • (4)懲戒処分の検討
  • (5)本人から賠償がない場合は民事訴訟や刑事告訴を検討する
  • (6)再発防止策の検討・実施

 

以下でそれぞれ詳しく見ていきましょう。

 

5−1.事実関係の調査と証拠の確保

まずは事実関係の調査と、証拠の確保が必要です。

その際、調査していることを従業員に気づかれてしまうと、従業員に証拠となりうる資料やデータを隠滅されてしまう可能性があります。秘密裏に調査を進めることが大切です。

調査方法や集めるべき証拠については、事案により多少異なりますが、基本的な調査方法としては、以下のような方法があります。

 

  • 領収書やクレジットカード明細等の確認
  • 出張時の訪問先などの関係者への事実確認
  • 宿泊先への利用履歴の確認・問い合わせ
  • 公共交通機関の予約キャンセル履歴の調査

 

証拠の確保が不十分だと、その後行う事情聴取で本人がカラ出張を認めず、問題が複雑化する危険があります。事情聴取の前に徹底的に調査し、証拠をしっかりと確保することが必要です。

 

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弁護士西川暢春のワンポイント解説

従業員が個人的に予約した宿泊先に対し、会社から宿泊の有無を問い合わせても、宿泊先は通常は答えてくれません。

そのような場合は、弁護士に調査を依頼し、弁護士会照会の方法により、弁護士会を通じて宿泊先に問い合わせることが効果的です。弁護士会照会とは、弁護士法第23条の2に基づき、弁護士が受任した事件の証拠収集や事実調査を円滑に行うため、弁護士会が個々の弁護士に代わって企業・団体に必要事項を照会できる、弁護士ならではの証拠収集手段です。

 

5−2.本人と面談し、事情聴取を行う

証拠が十分に確保できたら、次は本人に事情聴取を行います。

その後の懲戒処分や賠償請求をスムーズに進めるためには、ここで本人にカラ出張を行った事実を認めさせることが重要です。そして、不正の全貌をすべて白状させることを目指さなければなりません。

このとき、本人が嘘をついて犯行を認めないことも少なくありません。その場合は会社が持っている証拠と本人の主張の矛盾を指摘するなど、言い訳ができないようにして、真相を白状させる必要があります。

本人が事実を認めた場合は、その場で自認書を書かせることが適切です。自認書を取っておくことで、後から裁判に発展した場合に、本人が犯行を認めた証拠として提出することができます。

 

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弁護士西川暢春のワンポイント解説

この事情聴取で本人にカラ出張を認めさせることができるかどうかで、その後の対応がスムーズに進むかどうかが大きく変わってきます。事情聴取のテクニック面も大切なところなので、事情聴取は、不正事案の調査に精通した弁護士に依頼することをおすすめします。咲くやこの花法律事務所でもご依頼を承っていますのでご相談ください。

▶参考情報:咲くやこの花法律事務所の弁護士によるサポートはこちら(被害企業向け)

 

5−3.賠償方法を協議する

本人がカラ出張を認めたら、次は賠償方法を協議します。

基本的には一括返済が望ましいですが、長期間多数回にわたってカラ出張を繰り返していた等の場合は被害総額が大きく、一括での返済が難しいケースもあります。そのような場合は自宅の売却や親族等からの借入れなどの方法により一括返済ができないかどうかを検討します。

賠償方法が決まったら、その場で支払誓約書を作成し、本人に署名・押印してもらいます。一方、分割になる場合は、分割払いについて、強制執行認諾文言付きの公正証書を作成することが適切です。

 

▶参考情報:支払誓約書のサンプル

支払誓約書のサンプル

 

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弁護士西川暢春のワンポイント解説

強制執行認諾文言付きの公正証書は全国に約400ある公証役場で作成することができます。これを作成しておくことで分割払いの返済が滞った場合に、訴訟を経ずに、差押えを行うことが可能になります。

 

5−4.懲戒処分の検討

その後は本人に対する懲戒処分を検討します。

懲戒処分の種類は、会社の就業規則で定められます。会社によって多少異なりますが、通常は「戒告譴責訓告減給出勤停止降格諭旨解雇懲戒解雇」といった種類があります。

このような処分の中から、就業規則の規定を踏まえたうえで、悪質性や被害額、弁償の有無、本人の懲戒処分歴、これまで同種の事案での対応とのバランスなど、様々な事情を考慮した上で、適切な懲戒処分を選択する必要があります。

特に懲戒解雇や諭旨解雇の処分は裁判トラブルになりやすく、十分な証拠がない処分や事案の内容に照らして重すぎる処分をすると、裁判に発展した場合に不当解雇だと判断され、企業が多額の金銭の支払いを命じられるリスクがあります。懲戒処分を行う際は、必ず弁護士に相談した上で適切に対応を進めることが必要です。

 

参考

▶参考情報:懲戒処分の選択基準や進め方については、以下の記事で詳しく解説していますのでご参照ください。

懲戒処分とは?選択基準・進め方などを詳しく解説

 

5−5.本人から賠償がない場合は民事訴訟や刑事告訴を検討する

本人から賠償がない場合は、民事訴訟や刑事告訴を検討することになります。

事案の内容や会社が何を重視するかによって取るべき対応も異なるため、メリットやデメリットを弁護士に確認し、相談しながら進めることをおすすめします。

 

(1)カラ出張の場面で民事訴訟をするメリット・デメリット

カラ出張が起きた場合に民事訴訟をするメリットとデメリットは、それぞれ以下の通りです。

 

【メリット】

  • 裁判で勝てば相手が賠償を拒否する場合でも相手の財産を差し押さえることで回収することができる
  • 裁判所で和解が成立し、相手が支払いに応じることもある
  • 社内に対する不正行為の抑制効果が期待できる

 

【デメリット】

  • 費用と時間がかかる
  • 証拠集めが不十分になると自社にとって不利な内容の判決が出る場合がある
  • 会社の評判に悪影響が出るおそれがある

 

(2)カラ出張の場面で刑事告訴をするメリット・デメリット

次に、カラ出張をした従業員に対し刑事告訴をするメリットとデメリットは、以下の通りです。

 

【メリット】

  • 犯人に対し賠償の動機付けを与えることができる
  • 犯人に処罰を科すことができる
  • 社内に対する不正行為の再発防止効果が期待できる

 

【デメリット】

  • 刑事告訴が被害回復に直結するわけではない
  • 犯人が実刑となった場合は、犯人が働けなくなることで被害回復が困難になるおそれがある
  • 捜査への協力に負担がかかる
  • 報道されると会社の評判に悪影響が出るおそれがある
  • 不起訴になる可能性がある
  • 解決までに時間がかかる

 

5−6.再発防止策の検討・実施

同様の不正行為を防ぐためにも、社内で再発防止策を検討し、実施する必要があります。不正行為を未然に防ぐための組織体制を作ることが大切です。

再発防止策については、「8.カラ出張を防ぐための対策」でも詳しく解説していますので、ご参照ください。

 

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暢春
弁護士西川暢春のワンポイント解説

身元保証書を取得している会社では、身元保証人への請求も被害回復のための重要な手段の1つになります。自社の身元保証書の取得状況を確認しましょう。

 

▶参考情報:身元保証書について詳しくは、以下の記事をご参照ください。

身元保証書とは?従業員の不正発生時に役立つ作り方を解説【書式付】

 

6.カラ出張をした従業員に対する懲戒処分・懲戒解雇は可能?

カラ出張は故意に会社に損害を与えて私的な利益を得ようとする極めて悪質な行為です。そのため、就業規則における定め方にもよりますが、重い懲戒処分をすることも認められることが通常です。

ただし、上記でも述べた通り、行為の悪質さや被害額、弁償の有無、本人の懲戒処分歴や職務上の地位、会社のこれまでの同種の事案での対応とのバランスなど、様々な事情を考慮した上で適切なレベルの処分を選択する必要があります

懲戒処分のうち、特に諭旨解雇や懲戒解雇については従業員にとって極めて重い処分であることから、訴訟等に発展することも少なくないのが実情です。訴訟で諭旨解雇や懲戒解雇が無効だと判断されてしまうと、元従業員との雇用契約が現在も続いていることを判決で確認されるだけでなく、多額のバックペイ(解雇以降の賃金を解雇の時点にさかのぼって支払うこと)の支払いも命じられてしまいます。

参考に、以下で懲戒解雇が認められた事例とそうでない事例を一つずつご紹介します。

 

6−1.懲戒解雇が認められた事例

 

1.神戸地方裁判所尼崎支部判決 平成20年2月28日

 

●事案の概要

出張旅費を不正受給したとして会社に懲戒解雇された元従業員が、懲戒解雇処分は無効であるとして、会社に対し労働契約上の権利の確認と退職金の支払いを求めた事案です。

この元従業員は、上長に無断で上長印を出張届に押印し、出張を偽装して不正な旅費精算を多数回繰り返すなどして、約2年間に合計およそ280万円を不正に受給していました。

 

●裁判所の判断

裁判所は、元従業員の不正行為の事実はないという主張を裏付ける証拠がなく、また主張自体に矛盾があることを指摘した上で、会社側は、元従業員に対して十分な弁明の機会を与えた上で、従業員の弁明をふまえて検討した結果、懲戒解雇を決定していることから、処分の相当性を欠く事情は認められないとして、懲戒解雇を有効だと判断しました。

 

6−2.懲戒解雇が認められなかった事例

 

1.札幌高等裁判所判決 令和3年11月17日(原審:札幌地方裁判所判決 令和2年1月23日)

 

●事案の概要

郵便局の営業部営業インストラクターを務めていた元従業員が、不正な旅費請求を繰り返したとして懲戒解雇された事案です。

元従業員は下記のような不正受給を繰り返しており、約1年で合計およそ52万円程度を不正に受給していました。

 

  • 出張の際に社用車を利用し、会社から支給されていた給油カードを利用して給油していたにもかかわらず、会社に対しては公共交通機関を利用した旨の虚偽の報告を行い、その差額分を不正に受給する
  • クオカード付きの宿泊プランを利用してホテルに宿泊し、その領収書をあたかも宿泊代金のみの領収書であるかのように装って不正に旅費を請求する

 

●裁判所の判断

裁判所は、懲戒解雇を有効とした原判決を取り消し、以下の事情等をふまえた上で懲戒解雇を無効であると判断しました。そのうえで、この元従業員との雇用契約が現在も続いていることを判決で確認したうえで、会社に対して、合計約1800万円の支払いを命じました。

 

  • 本事案では元従業員の他にも不正受給等の非違行為を行った者が数名おり、それらの違反者に対する処分は、最も重い処分で停職3ヵ月であった。元従業員の非違行為の態様等はこれらの違反者とほとんど同程度であるから、元従業員のみが懲戒解雇処分を受けることは、停職3ヵ月の停職処分を受けた他の違反者との均衡を失すること。
  • 他にも多数の営業インストラクターが、元従業員と同様の不正行為を繰り返していたなど、会社側の旅費支給事務にずさんな面があったこと。
  • 元従業員にこれまで懲戒歴がなく、営業成績も優秀で会社に貢献してきたこと。
  • 元従業員が本事案の不正行為を反省して始末書を提出し、利得額を全額返還していること。

 

6−3.咲くやこの花法律事務所の交際費不正請求に関する解決事例

咲くやこの花法律事務所にご相談いただいた事例においても、弁護士による調査の結果、従業員が5年間で合計およそ300万円の交際費を不正請求していたことが発覚し、懲戒解雇もありうる事案であったものの、勤続25年以上だったこと等を考慮し、最終的に普通解雇を選択して解決した例があります。

どのような処分が最適かは事案ごとの内容や会社の意向等により異なります。弁護士に相談した上で処分を検討することが必要です。

 

7.税務調査などによりカラ出張が発覚した場合に会社が負うリスク

税務調査によりカラ出張が発覚した場合、法人税の申告内容の修正が必要になったり、延滞税や加算税が課されるなどのリスクがあります。

また、領収書を偽造するなど、仮装・隠ぺい行為があったとみなされた場合は、重加算税が課されるおそれもあるため、注意が必要です。

税務調査で初めてカラ出張が判明するということがないようにするためにも、社内で日ごろから不正行為の起きない環境を整備していくことが大切です。カラ出張の防止のための対策については、次の段落で解説していますのでご参照ください。

 

8.カラ出張を防ぐための対策

カラ出張を防ぐための対策としては、次のようなものが考えられます。

 

  • (1)カラ出張についての一斉調査
  • (2)出張の事前承認制
  • (3)出張旅費規程や経費精算ルールの整備と明示
  • (4)領収書の提出を義務付ける

 

以下で順番に解説していきます。

 

8−1.カラ出張についての一斉調査

カラ出張が見つかった場合に、他の従業員についても不正な請求がなかったかどうかを調査し、不正があった者に対しては適切な処分をすることが、最も重要なカラ出張対策になります。

 

8−2.出張の事前承認制

出張について事前にその目的や訪問先を申告させ、承認を得なければならない制度を設けることが不正の防止になります。承認権者が、出張の必要性をよく確認することが大切です。

 

8−3.出張旅費規程や経費精算ルールの整備と明示

出張旅費規程や経費精算ルールを整備し、その内容を従業員に周知することも大切です。

例えば、クオカード付きの宿泊プランといったものも多いですが、そのようなプランの利用を禁止することも、出張費の適正化につながります。

 

8−4.領収書の提出を義務付ける

カラ出張を予防するためには、領収書やICカード履歴の提出を義務付けることも効果的です。また、ICカードについては、出張用の社用ICカードを用意し、出張時はそれを利用させることで、カラ出張の抑制となるだけでなく、後から調査が必要となった場合に有力な証拠となります。

 

9.カラ出張の対応に関して弁護士へ相談したい方はこちら(被害企業向け)

カラ出張の対応に関して弁護士へ相談したい方はこちら(被害企業向け)

咲くやこの花法律事務所では、企業側の立場で、カラ出張をはじめとする従業員の不正行為について多くのご相談をお受けし、解決してきました。最後に、咲くやこの花法律事務所によるサポート内容をご紹介します。

咲くやこの花法律事務所の業務上横領に関する被害企業向けサービスについては、以下の動画でサポート内容や強み、実績などをご紹介していますので、あわせてご参照ください。

 

 

9−1.カラ出張などの従業員の不正行為に関するご相談

咲くやこの花法律事務所では、カラ出張などの従業員の不正行為に関する対応のご相談をお受けしています。従業員への対応等でお悩みの事業者様は、咲くやこの花法律事務所へご相談下さい。

 

  • カラ出張をはじめとする不正行為の調査方法に関するご相談
  • 不正行為をした従業員への対応に関するご相談
  • 不正行為をした従業員に対する懲戒処分についてのご相談
  • 不正行為をした従業員への退職勧奨や解雇に関するご相談
  • 従業員の解雇後・退職後のトラブルに関するご相談

 

咲くやこの花法律事務所へのご相談費用

●初回相談料:30分5,000円+税(顧問契約締結の場合は無料)
●相談方法:来所相談のほか、オンライン相談、電話相談が可能

 

9−2.顧問契約サービス

咲くやこの花法律事務所では、事業者向けに日ごろから会社の整備をサポートする顧問弁護士サービスを提供しています。何かトラブルが起きた際にすぐに相談できるだけでなく、従業員による不正行為の発生を防ぐ社内体制づくりについてもサポートします。

 

参考

▶参考情報:咲くやこの花法律事務所の顧問弁護士サービスについては、以下の顧問弁護士サービスサイトで詳しく説明していますので、ご覧ください。

実績豊富な顧問弁護士をお探しなら大阪の咲くやこの花法律事務所

 

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10.まとめ

この記事では、カラ出張についてのよくある事例や対応方法などについて解説しました。

カラ出張とは、実際には出張していないにもかかわらず、出張したと偽って架空の交通費や宿泊費あるいは会社の規程により定められた出張旅費等を会社から不正に受給する行為のことです。

よくある事例としては、以下のようなパターンがあげられます。

 

  • (1)出張自体が存在しないケース
  • (2)交通費や宿泊費を水増し請求するケース
  • (3)私的な飲食費等を出張中の接待交際費として計上するケース

 

また、カラ出張が発覚するきっかけとしては、

 

  • 営業成績や具体的な報告が伴っていない
  • 経費の申告内容と証拠書類の内容に食い違いがある
  • 税務調査

 

などがあります。特に、税務調査で初めて発覚した場合は、会社側にも延滞税等のペナルティが課されるおそれがあるため、経費精算のルールを明示し徹底する、チェック体制を強化するなど、不正行為を未然に防ぐための体制を整備することが大切です。

カラ出張が発覚した場合に会社が取るべき対応は、主に以下の通りです。

 

  • (1)事実関係の調査と証拠の確保
  • (2)本人と面談し、事情聴取を行う
  • (3)賠償方法を協議する
  • (4)懲戒処分の検討
  • (5)本人から賠償がない場合は民事訴訟や刑事告訴を検討する
  • (6)再発防止策の検討・実施

 

この中でも「(1)事実関係の調査と証拠の確保」の証拠の確保をしっかり行い、「(2)本人と面談し、事情聴取を行う」の事情聴取で本人に不正を認めさせることが重要です。そのためにも、証拠の確保や事情聴取について必ず弁護士に相談した上で進めることが大切です。

咲くやこの花法律事務所では、カラ出張などの従業員の不正行為について、多くの事業者様からのご相談をお受けし、解決してきました。従業員のカラ出張への対応についてお悩みの事業者様は、咲くやこの花法律事務所にご相談ください。

 

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記事更新日:2025年10月8日
記事作成弁護士:西川 暢春