こんにちは。弁護士法人咲くやこの花法律事務所の弁護士西川暢春です。
「従業員が私物を購入した領収書を、経費と偽って会社に請求していた」
「仕入先が従業員と共謀して架空の請求書を会社に送付し、自社は気づかずに、長年架空の代金を支払っていた」
「従業員のカラ出張や、出張経費の水増しが発覚した」
咲くやこの花法律事務所では、このような企業の詐欺被害、不正の被害についてのご相談をいただくことがあります。上記のような事案は、詐欺行為にあたり、詐欺罪が成立する可能性がある事案です。
詐欺罪とは、人を騙して財産等を交付させたり、不法に利益を得たりする犯罪です。詐欺罪が成立するためには、人を騙して(欺罔行為)、錯誤に陥らせることにより、財産を処分させ、財物の占有を自己または第三者に移したことが構成要件として必要となります。
このような詐欺の被害は会社においても起こることがあります。もし、会社に、従業員や取引先による詐欺被害が発覚した場合は、速やかに懲戒解雇や契約解除、返済請求のほか、場合によっては刑事告訴といった対応をすることが必要です。
ただし、これらの対応においては注意すべき点が多数あり、自己流で誤った対応をしてしまうと、被害回復が困難になるだけでなく、場合によっては会社側がさらなる被害を被ってしまうリスクがあります。
例えば、100回にわたり社用車での出張を公共交通機関利用と偽って旅費を会社から不正受給していた従業員を懲戒解雇した事案では、処分が他の従業員との均衡を欠くなどの問題が指摘され、懲戒解雇が無効と判断されました。敗訴の結果、会社はこの従業員との雇用契約が継続していることを判決で確認され、1800万円を超える支払いを命じられています(札幌高等裁判所判決令和3年11月17日)。
このようなリスクを回避するためにも、発覚初期の段階から必ず弁護士に相談した上で対応を進めることが必要です。詐欺被害への対応は、初動を誤らないことが大切であり、初動を自己流で対応してしまうと、取り返しのつかない失敗になってしまうことも少なくありません。
この記事では、詐欺罪の構成要件やよくある事例、社内で詐欺行為があった場合に会社が取るべき対応などについて詳しく解説します。この記事を最後まで読むことで、詐欺被害を受けた場面において採るべき対応とやってはいけない対応を理解し、解決に向けて一歩踏み出すことができるはずです。
それでは見ていきましょう。
弁護士西川 暢春
詐欺行為により会社が被害を受けた場合、その後の対応を決める際は、まず自社が何を優先するかを明確にすることが必要です。
例えば被害回復が自社の最優先事項であるにもかかわらず、感情的な理由から先に刑事告訴を進めた結果、本人が実刑となり、返済を得ることが難しくなってしまうといったこともあります。このような事態を避けるためにも、まずは弁護士に相談し、それぞれの対応のメリット・デメリットをきちんと考慮した上で対応を進める必要があります。
咲くやこの花法律事務所では、従業員や取引先による不正行為への対応について、多くの事業者様からご依頼をいただき、解決してきた実績があります。詐欺被害でお悩みの事業者様はぜひ咲くやこの花法律事務所にご相談ください。弁護士が事務所の経験や実績をもとに、最適な対応を提案し、早期の問題解決に向けて尽力します。
▶参考情報:業務上横領・詐欺・窃盗の被害回復に関する弁護士によるサポートはこちら(被害企業向け)
※咲くやこの花法律事務所では、企業または事業者からのご相談のみお受けしています。
また、詐欺行為に関する咲くやこの花法律事務所の解決事例もご紹介していますのであわせてご覧ください。
ー この記事の目次
1.詐欺罪とは?

詐欺罪とは、人を騙して財産等を交付させたり、不法に利益を得たりする犯罪です。刑法第246条に規定があり、法定刑は10年以下の拘禁刑とされています(以前は懲役刑とされていましたが、刑法改正により拘禁刑となりました)。
1−1.詐欺罪の主な種類
詐欺罪は主に「1項詐欺」と「2項詐欺」の2つに分けられます。
(1)1項詐欺
1項詐欺は、人をあざむいて財物を交付させる犯罪です(刑法第246条1項)。
典型例としては、以下のような詐欺行為があります。
- 本物だと嘘をついて偽物の粗悪品を売り、代金を支払わせる
- 虚偽のもうけ話を持ちかけて金銭をだまし取る
- 従業員が私物を購入した領収書を、経費を負担したと偽って会社に提示し、金銭の支払いを得る
- 仕入先が従業員と共謀して架空の請求書を会社に送付し、金銭を支払わせる
(2)2項詐欺
2項詐欺は、人をあざむいて財産上不法の利益を自ら得たり、または他人に利益を得させる犯罪です(刑法第246条2項)。
典型例としては、以下のような詐欺行為があります。
- 代金を支払うつもりがないのにタクシーを利用し、代金を踏み倒す
- 代金を支払うつもりがないのにホテルに宿泊する
- 代金を支払うつもりがないのに商品を発注し、納品を得る
▶参考情報:刑法第246条
人を欺いて財物を交付させた者は、十年以下の拘禁刑に処する。
2 前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。
・参照元:「刑法」の条文はこちら
1−2.詐欺罪と業務上横領罪や窃盗罪との違い
詐欺罪が成立するためには、被害者の意思によって物品または財産上の利益を交付されることが必要です。
一方で、業務上横領罪や窃盗罪は、被害者の意思に反して物品の占有が移転された場合に成立する犯罪です。その中でも、行為者が被害者から預かるなどして管理していた物品を被害者の意思に反して取得する場合は業務上横領罪、他人が管理している物品をその意思に反して取得する場合は窃盗罪が成立します。
このように、詐欺罪と業務上横領罪と窃盗罪では、「被害者の意思による交付行為があるか」が根本的に異なります。
▶参考情報:業務上横領罪に関する詳しい解説は、以下の記事をご参照ください。
2.詐欺罪が成立する構成要件は?

詐欺罪は、(1)人を騙して(欺罔行為)、(2)錯誤に陥らせることにより、(3)財産を処分させ、(4)財物の占有を自己または第三者に移したことにより成立します。
なお、成立するためには上記4つの行為に因果関係があることが必要です。
▶詐欺罪の4つの構成要件
- (1)人を騙すこと(欺罔行為)
- (2)錯誤に陥らせること
- (3)財産を処分させること
- (4)財物の占有を自己または第三者に移したこと
それぞれについては、以下で順番に詳しく解説していきます。
2−1.(1)人を騙すこと(欺罔行為)
一つ目の構成要件は、人を騙すことです。この人を騙す行為は「欺罔行為(ぎもうこうい)」と呼ばれることもあります。
欺罔行為の目的は、「財産を処分させるため」であることが必要です。そのため、例えば相手の注意を他にそらす目的で嘘をつき、そのすきに商品を持ち去る等といった行為の場合は、詐欺罪は成立せず、窃盗罪が成立します(参考:広島高等裁判所判決昭和30年9月6日等)。
2−2.(2)錯誤に陥らせること
ここでいう「錯誤」とは、被害者の認識と事実が異なっている状態のことをいいます。
例えば、仕入先が従業員と共謀して架空の請求書を会社に送付し、代金を支払わせる場合、被害者である請求先の会社は、正しい請求書だと認識して代金を支払います。しかし、実際には、請求書は架空のものであり、被害者の認識と事実が異なっているため、「錯誤に陥った」と言うことができます。
なお、欺罔行為が存在しても被害者が錯誤に陥らなかったような場合は未遂罪にとどまります。詐欺罪は未遂であっても処罰の対象となります(刑法第250条)。
2−3.(3)財産を処分させること
詐欺罪が成立するためには、被害者によって物品または財産上の利益を交付されることが必要です。なお、「交付」とは自らの意思に基づいて物品または財産上の利益を他人に移転することを指します。
2−4.(4)財物の占有を自己または第三者に移したこと
4つ目の成立要件は、「財物の占有を自己または第三者に移したこと」です。
「占有」とは財物を実際に所持または支配することです。対象となる金銭や物品を所持していたり、支配することができる状態にあることを「占有下にある」といいます。
詐欺罪が成立するためには、財物の占有の移転が完了する必要があります。そのため、例えば被害者が犯人に財物を交付しようとしても、そのことに気づいた第三者が犯人を捕らえたために財物を受け取れなかったような場合、詐欺罪は成立せず、詐欺未遂罪が成立するにとどまります。
また、詐欺罪が成立するためには、この4点の因果関係が一連の流れでつながっていることが必要です。因果関係が一つでも途切れている場合は詐欺未遂罪にとどまります。
3.詐欺罪の法定刑は?初犯から懲役になる可能性はある?

詐欺罪の法定刑は10年以下の拘禁刑です(刑法第246条)。
また、仮に詐欺罪で起訴されたとしても必ず実刑判決となるわけではありません。刑事裁判では被害額が大きいかどうかや被害者との示談の有無、弁償の有無、前科の有無などの事情が総合的に考慮されます。
被害額が小さかったり、被害者に弁償がされている場合は、不起訴となるケースがあります。また、起訴されたとしても、実刑ではなく、執行猶予となるケースがあります。一方、被害額が高額であり、被害が弁償されていないケースでは、初犯でも実刑となる可能性が高いです。
4.詐欺罪の時効は何年?
詐欺罪の刑事上の公訴時効は7年です(刑事訴訟法第250条2項)。そのため、7年が経過した後は、刑事告訴はできず、処罰もされません。
▶参考情報:刑事訴訟法第250条2項
② 時効は、人を死亡させた罪であつて拘禁刑以上の刑に当たるもの以外の罪については、次に掲げる期間を経過することによつて完成する。
四 長期十五年未満の拘禁刑に当たる罪については七年
・参照元:「刑事訴訟法」の条文はこちら
一方、詐欺の被害について、被害者は加害者に対して、民事上損害賠償請求をすることができます。この請求の民事上の時効は、被害者が損害及び加害者を知ったときから3年(民法第724条1項)または詐欺行為が発生したときから20年(民法第724条2項)です。
▶参考情報:民法第724条
不法行為による損害賠償の請求権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないとき。
二 不法行為の時から二十年間行使しないとき。
・参照元:「民法」の条文はこちら
5,社内で起きる詐欺行為の事例
社内の不正が、詐欺罪に該当することもあります。社内で起きる詐欺行為の事例としては、以下のようなケースがあげられます。
5−1.カラ出張
出張にかかる交通費や旅費等を水増しして経費として会社に申請し、差額分をだましとるケースや、そもそも存在しない出張の費用を会社に請求して旅費をだまし取るケースです。
▶参考情報:カラ出張についての詳しい解説は、以下の記事で解説していますのでご参照ください。
5−2.経費の不正請求
私的な飲食費や交際費あるいは私的な物品購入費を経費と偽って申請し、会社に支払わせるケースです。
▶参考情報:経費の不正請求についての詳しい解説は、以下の記事で解説していますのでご参照ください。
5−3.架空取引、架空請求
取引先や下請会社と共謀して、実在しない取引について架空の請求をし、会社に支払わせるケースも詐欺罪にあたることがあります。
▶参考情報:架空取引については以下で解説していますのでご参照ください。
5−4.経歴詐称
採用時に学歴や職歴、資格の所持等を詐称するケース(経歴詐称)についても、詐欺行為であると評価される例があります。経歴能力の詐称等を理由に従業員を解雇した事案についての裁判例をご紹介します。
(1)経歴詐称が詐欺行為であると評価された事案(東京地方裁判所判決平成27年6月2日)
事案の概要
ウェブマーケティング会社が給与40万~60万円で「システムエンジニア・プログラマー」の求人募集を行ったところ、外国人であるAから応募がありました。
Aが提出した履歴書及び職務経歴書には、
- ①株式会社aに入社し現在在職中であること、
- ②ビジネスレベルの日本語が使えること、
- ③自身のPCスキルやキャリアが会社の求める水準にある旨
が記載されていたため、会社はAの面接を行いました。
面接の際、会社は採用にあたり求められる能力をAに説明し、Aに対して、最低額である40万円を給与額として提示しました。
これに対し、Aは自分がシステムエンジニア・プログラマーとして高い能力を有していることや、これまでに日本の会社や大学で勤務した経験があるなどとアピールし、賃金を60万円に増額するように会社に要求しました。
会社は実際に会話した際にAの日本語能力に若干不安が感じられたものの、システムエンジニアの業種としての特性上さほど問題にはならないだろうと判断し、Aを採用しました。また、会社は給与面で揉めて優秀な人材を逃したくないとの考えから、在職中の会社を辞めて入社するという条件で、最終的に給与額を60万円にすることに同意しました。
ところが、入社後に勤務を開始したところ、Aは明らかに能力が不足しており、上記①~③の経歴や能力が詐称であったことが判明しただけでなく、問題行動を多数繰り返しました。
そこで、会社が経歴詐称を理由にAを解雇したところ、Aは不当解雇であるとして、会社に訴訟を起こしました。
会社側はAが職歴、システムエンジニアとしての能力及び日本語の能力を詐称して会社を欺罔して雇用契約を締結させたものであり,これは詐欺に当たるところ、賃金等を支払って損害を受けたと主張し、Aに対し不法行為による損害賠償として約354万円を請求しました。
裁判所の判断
① 解雇の有効性について
裁判所は、Aが行った下記3点の詐称について、会社とAとの雇用関係において重大な意味を有すると判断しました。
- 在職中かどうかという前職に関する事項についての詐称
- 実際には能力がないのに、会社が求めるシステムエンジニア・プログラマーとしての能力があると詐称したこと
- 業務の遂行に支障がないレベルの日本語能力があると詐称したこと
また、上記詐称の他にも、会社からの指導に対して反省の様子を見せず、一向に改善する兆しがなかったことを踏まえると、本件解雇は有効だと判断しました。
② 経歴等の詐称が詐欺行為に該当するか否か
裁判所は、「労働者が申告を求められ、あるいは確認をされたのに対し、事実と異なる申告をするにとどまらず、より積極的に当該申告を前提に賃金の上乗せを求めたり何らかの支出を働きかけるなどした場合に、これが詐欺という違法な権利侵害として不法行為を構成するに至り、上乗せした賃金等が不法行為と相当因果関係のある損害になる」としました。
そのうえで、面接時に自己の職歴、職業上の能力及び日本語の能力を詐称し、会社から提示を受けた賃金月額40万円を増額するように繰り返し求め、会社に月額60万円まで賃金を増額させたものであるから、この賃金増額に関するAの言動は詐欺という違法な権利侵害として不法行為を構成すると判断しました。
そのうえで、増額分の賃金月額20万円が不法行為と相当因果関係のある損害になるとして、Aに対し賠償を命じました。
5−5.その他の事例
社内で起きる詐欺行為のそのほかの事例としては、以下のようなケースがあげられます。
- 会社に必要な出金であると嘘をついて決済権者を騙し、払戻請求書に銀行届出印を押させて、預金の支払いを受けるケース
- 取引先を騙して自身の口座にお金を送金させるケース
- タイムカードの代行打刻や書き換えにより勤怠を改ざんし、本来労働していない時間分の給与を受けとるケース(タイムカードの不正打刻)
6,社内で詐欺行為があった場合に会社が取るべき対応とは?

次に、社内で詐欺行為があった場合に会社が取るべき主な対応については、以下の通りです。
- (1)被害回復のための民事上の賠償請求
- (2)刑事責任を問う対応
- (3)労務面での対応
それぞれについて、順番に解説していきます。
6−1.被害回復のための民事上の賠償請求
会社が詐欺による被害を回復するためには、民事上の損害賠償請求をすることが必要です。どのような方法で被害を回復していくかは、個別の事案ごとに弁護士に相談することが大切ですが、最も基本的な対応は以下のとおりです。
(1)取引先等の関係者へのヒアリング等の調査や証拠保全を行う
まずは、詐欺行為に関する十分な証拠を集めることが必要です。この際、調査や証拠収集をしていることを本人に気づかれると、証拠を隠滅されたり、関係者と口裏合わせが行われたりすることで調査が困難になる等のリスクがあります。本人に気づかれないように調査を進めて、できる限り証拠を確保することが重要です。
(2)本人への事情聴取を行う
調査を行い、十分に証拠を収集できたら、次は本人に事情聴取を行います。ここで本人に詐欺行為の犯行事実を認めさせることが、その後の被害回復や雇用終了をスムーズに進めるために重要です。そして、事情聴取で本人に犯行事実を認めさせるためには、事情聴取についての経験やノウハウも必要です。事情聴取はできる限り社内不正事案の対応に精通した弁護士に依頼することをおすすめします。
(3)被害額についての返済方法を協議する
本人が犯行を認めたら、次は被害額についての損害賠償の方法を本人と協議します。 最も望ましいのは一括返済ですが、本人に資力がなく、分割払いでしか対応ができない場合は、分割払いがとどこおるリスクを想定した対応が必要です。分割払いがとどこおったときにすぐに強制執行ができるように、強制執行認諾文言付き公正証書を作成することが適切です。
(4)もし合意できなかった場合は民事訴訟を検討する
もし本人が犯行を認めなかったり、返済について合意できなかった場合は民事訴訟を検討することになります。ただし、訴訟で請求が認められても、本人に支払いを拒否された場合はさらに追加で強制執行等の対応が必要になり、時間やコストがかかってしまいます。そのような事態を避けるためにも、「(2)本人への事情聴取を行う」の段階で本人に自発的に返済を誓約させることが非常に重要となります。
弁護士西川 暢春
一般的な債権回収では、回収のために内容証明郵便を送るといった方法が良く行われます。
しかし、上記のような詐欺事案での被害回復のためには、そのような通常よく行われる債権回収の方法は不適切であることも多いです。事情聴取をしてその場で詐欺行為を認めさせ、書面で賠償を誓約させることが迅速・確実な回収につながります。
このように不正事案での被害回復は通常の債権回収とは取り組み方が異なるため、不正事案の被害回復に精通した弁護士に依頼することが適切です。
6−2.刑事責任を問う対応
犯人を刑事裁判にかけるためには、被害者が刑事告訴を行うことが必要になることが通常です。
その場合の基本的な対応は、以下の通りです。
(1)弁護士に相談する
刑事告訴は弁護士に依頼して行うことがほとんどです。
自社で刑事告訴を行うことも理屈上は可能ですが、正確な告訴状を作成したうえで、適切な証拠とともに提出しなければ警察がなかなか積極的に動いてくれないことが多く、自社のみで対応を進めることは非常に困難です。
不正事案の対応に精通した弁護士に依頼することで、告訴状を適切に作成したうえで、適切な証拠とともに刑事告訴を行うことができ、一連の対応をスムーズに進めやすくなります。
(2)告訴状を提出する
刑事告訴をするためには、警察に告訴状を提出する必要があります。直接窓口で提出することも、郵送で提出することも可能です。
(3)警察との打ち合わせを行う
告訴状を提出した後は、警察署に行って打ち合わせを行います。ここで警察署の担当者に対して、被害の内容や証拠の内容、告訴状の内容を適切に説明することが大切です。
(4)告訴状が受理される
告訴状が受理されれば、警察による捜査が開始されます。捜査が開始された後も、追加の証拠を提出したり、社長や担当者が警察署に出向く等、被害者として警察の捜査に協力していく必要があります。まずは、被害者側の事情聴取から行われることが通常です。被害者として事情聴取に協力して調書の作成などに応じなければなりません。
(5)犯人の取り調べ
警察が犯人を呼び出すなどして、犯人の取り調べを行います。
(6)送検される
犯人に対する取り調べが行われた後、事件が検察庁に送致されます。
(7)検察官が起訴・不起訴を決定する
検察庁で再度捜査が行われた後、検察官が起訴か不起訴かを決定します。
(8)刑事裁判が行われる
起訴された場合、裁判所で刑事裁判が行われ、有罪になれば刑罰が科されます。
弁護士西川 暢春
ここまで説明した流れを進めるためには、初期段階での証拠の確保と適切な告訴状の作成が非常に重要になります。そのうえで、まずは、警察に告訴状を受理してもらうこと(上記(4))を目指し、受理後は犯人を呼び出して取り調べをしてもらうこと(上記(5))を目指す必要があります。
6−3.労務面での対応
カラ出張や経費の不正請求、取引先と共謀した架空請求といった、従業員による詐欺行為のケースでは、労務面の対応も必要になります。
調査や事情聴取の結果、本人による犯行の事実が明らかになった場合は、懲戒解雇や普通解雇、または退職勧奨により、雇用を終了させることが通常です。
なお、解雇は必ず十分な証拠を確保した上で行うことが必要です。証拠の収集に不備があると、後で本人から不当解雇を主張された場合に、企業側が裁判で敗訴してしまう可能性があります。
敗訴した場合、雇用の継続や多額のバックペイの支払いを命じられるリスクがあるため、解雇する場合は必ず事前に弁護士に相談してください。また、解雇を争われる危険をなくすためには、解雇の前に従業員に事情聴取を行い、その中で詐欺行為により会社に損害を与えたことを認める書面を提出させておくことが重要です。
▶参考情報:不当解雇と判断された場合にどうなるのかについては、以下の記事で詳しく解説していますのでご参照ください。
弁護士西川 暢春
従業員の詐欺行為があっても、他の従業員への対応との均衡の観点から懲戒解雇が重すぎるとして無効とされる例もあり、注意が必要です。
例えば、100回にわたり社用車での出張を公共交通機関利用と偽って旅費合計約50万円を会社から不正受給していた従業員を懲戒解雇したのに対し、従業員が懲戒解雇の無効を主張して訴訟を提起した例があります(札幌高等裁判所判決令和3年11月17日)。
この事案では、行為は悪質であるものの、従業員が利得額を全額返還していること、会社にもずさんな点があったこと、従業員が反省していること、懲戒歴がなく営業成績が優秀だったことのほか、同程度の事例で停職3か月の処分にとどまった従業員がいたことを理由に、懲戒解雇は無効と判断されました。
敗訴の結果、会社はこの従業員との間で雇用契約が継続していることを判決で確認され、1800万円を超える支払いを命じられることになりました。
7.詐欺行為の被害に遭った際に弁護士に相談すべき理由
詐欺被害に遭った際に企業が弁護士に相談すべき理由としては、以下の2つがあげられます。
- (1)初期対応を誤るとその後の被害回復や雇用終了に困難が生じる
- (2)メリット・デメリットを考慮した上での適切な判断や対応が可能になる
それぞれについて、順番に詳しく解説します。
7−1.初期対応を誤るとその後の被害回復や雇用終了に困難が生じる
詐欺被害に遭った場合の対応で最も重要なのは、初期の調査・証拠収集の段階での対応です。ここで十分な証拠を確保したうえで、本人に対する事情聴取を上手に行い、本人に自身の詐欺行為で会社に被害を与えたことを認めさせ、かつそれを書面化しておくことが非常に大切です。
ここで本人に詐欺行為を認めさせることができないと、その後の損害賠償請求がうまくいかず、また、解雇等の場面でもトラブルになる危険が非常に高くなります。特に、詐欺行為についての証拠が不十分なまま従業員を解雇した場合、逆に従業員から不当解雇だと主張され、裁判に負けてしまう可能性が高く、会社側がさらなる損害を被るおそれがあります。
弁護士に依頼して事案に応じた適切な証拠を確保することが、被害の迅速な回復と、トラブルの迅速な解決につながります。
7−2.メリット・デメリットを考慮した上での適切な判断や対応が可能になる
「6.社内で詐欺行為があった場合に会社が取るべき対応とは?」で民事上の損害賠償請求と刑事責任を問う対応についてご説明しましたが、これら2つの対応にはそれぞれメリットとデメリットがあります。
例えば、被害回復を優先しているにもかかわらず刑事告訴した場合、実刑により犯人が就労できなくなり、被害回復が困難になってしまうといった例があります。
被害回復のためには、①犯人の転職後の給与から被害を弁償させることを想定して刑事告訴を控えるか、②刑事告訴する場合であっても一括で回収できる分は回収し終えてから刑事告訴をするといった対応が必要です。
弁護士に依頼すれば、民事・刑事上の対応についてのメリット・デメリットを十分に考慮した上で、自社にとって最も適切な方法で対応することが可能です。
自社のみでこのような判断をするのは困難も伴うため、詐欺被害に遭った際はまず弁護士に相談し、個別の事案の事情に応じた正しい対応を確認したうえで対応を進めることが大切です。
弁護士西川 暢春
社内で従業員や取引先による詐欺行為が発覚した場合、企業にとって重要なのは、単に犯人を処分することではなく、「被害回復」「証拠確保」「雇用終了」「刑事対応」を適切な順序で進めることです。しかし、初動対応を誤ると、被害金の回収が困難になったり、懲戒解雇が無効と判断されたりして、会社がさらに大きな損害を被るおそれがあります。
咲くやこの花法律事務所では、企業側の立場で、従業員による経費の不正請求、カラ出張、架空取引、取引先との共謀による架空請求など、多数の社内不正案件に対応してきました。単に法的なアドバイスをするだけでなく、証拠収集の方法、事情聴取の進め方、自認書や返済誓約書の作成、公正証書の活用、懲戒処分や解雇の実施、さらには刑事告訴まで、一連の対応を総合的にサポートできることが強みです。
また、詐欺被害への対応では、被害回復を優先するのか、刑事責任の追及を優先するのかによって取るべき方針が大きく変わります。咲くやこの花法律事務所では、それぞれのメリット・デメリットを踏まえ、企業の目的に応じた最適な解決方法をご提案しています。実際に、従業員による経費不正や下請業者との共謀による架空請求事案などで、被害回復と雇用終了の両立を実現した実績があります。
社内不正は、発覚直後の対応が結果を大きく左右します。被害を最小限に抑え、迅速な解決を実現するためにも、詐欺行為が疑われる段階から、企業側労務問題と社内不正対応に精通した咲くやこの花法律事務所へご相談いただくことをおすすめします。
▶参考情報:咲くやこの花法律事務所の弁護士によるサポート内容は以下をご覧ください。
8.実際に咲くやこの花法律事務所の弁護士が企業の詐欺行為の被害対応をサポートした解決事例
咲くやこの花法律事務所では、企業の詐欺行為の被害について会社から多くのご相談をお受けし、解決してきました。以下では、企業の詐欺被害等について、実際に咲くやこの花法律事務所にご相談いただいた事例の中から2つの事例をご紹介します。
8−1.クリニックの職員が私物の購入費用を経費だと偽り騙し取った事案
このクリニックでは、業務に必要な備品等を職員が立て替えた後、職員が経費申請をしてクリニックが立替分を支払う習慣がありました。
ある時、日常的に購入業務を担っていた職員が、ヘッドホンやペット用品等の私物を複数回に渡り購入し、経費申請書には虚偽の記載をして申請することで購入分の費用をクリニックから騙し取っていたことが判明しました。
そこで、本人への返金請求や解雇等の対応について咲くやこの花法律事務所にご依頼いただきました。購入品のレシート等の証拠資料を十分に集めた後、弁護士が本人と面談した結果、犯行を認めたため、返金を誓約する内容の自認書に署名してもらい、その後懲戒解雇しました。
8−2.下請業者と共謀して架空請求を行い、会社から多額の金銭を騙し取った事案
部長職の従業員が、自身の担当部署の業務に関する下請業者を選定する権限を有していたところ、これを悪用し、下請業者に協力させて、架空の業務を下請業者に依頼したように見せかけて、代金を会社から下請業者に支払わせ、その代金を下請業者から従業員の個人口座に支払わせるということを何度も繰り返した事案です。
被害額は合計でおよそ8000万円にのぼりました。
咲くやこの花法律事務所が被害会社から依頼を受け、弁護士がまずは社内調査を行い、下請業者への発注内容が架空であることを確認しました。そのうえで、下請業者への事情聴取を行い、部長職の従業員と共謀して架空の発注を繰り返していたことを認めました。最後に弁護士が、本人と面談し、犯行を認めさせ、弁償を誓約する旨の合意書に署名させました。そのうえで、一括返済できる部分は一括返済させ、残りは分割払いで弁償していくことを約束させ、公正証書を作成しました。その後、従業員を懲戒解雇しました。また、本件の犯行に協力した下請業者についても弁護士が交渉を行い、被害額について返還を約束させて、公正証書を作成しました。
9.企業の詐欺行為の被害対応に関して弁護士に相談したい方はこちら

咲くやこの花法律事務所では、企業の詐欺被害について多くの事業者からご相談をお受けし、解決してきました。最後に、咲くやこの花法律事務所の弁護士による、詐欺被害回復に関するサポート内容をご紹介いたします。
9−1.詐欺被害回復や刑事告訴に関するご相談
咲くやこの花法律事務所では、従業員や取引先等による詐欺被害の回復や刑事告訴に関するご相談をお受けしています。法律事務所として、企業の詐欺被害事案について、多数のご依頼をいただき、解決してきた経験をもとに、正しい対応で迅速な解決を実現します。
詐欺被害でお困りの事業者様はぜひ一度咲くやこの花法律事務所にご相談ください。
咲くやこの花法律事務所の弁護士への相談費用
- 初回相談料:30分5,500円(顧問契約の場合は無料)
- 相談方法:来所相談のほか、オンライン相談、電話相談が可能
9−2.詐欺行為を行った従業員に対する処分についてのご相談
咲くやこの花法律事務所では、従業員や役員に対する懲戒処分・解任・懲戒解雇・普通解雇等の処分についてのご相談も承っております。
詐欺被害が疑われる場合も安易に解雇してしまうと、あとで従業員から不当解雇だとして訴えを起こされたときに、解雇無効と判断されるリスクがあります。敗訴すると多額のバックペイの支払いや雇用継続が必要になり、会社側が大きなダメージを受けてしまいます。そのため、解雇を検討するときは、必ず弁護士に相談した上で処分を進めることが必要です。
詐欺行為を行った従業員等に対する処分についてお悩みの事業者の方は、咲くやこの花法律事務所にご相談ください。
咲くやこの花法律事務所の弁護士への相談費用
- 初回相談料:30分5,500円(顧問契約の場合は無料)
- 相談方法:来所相談のほか、オンライン相談、電話相談が可能
9−3.顧問契約サービス
咲くやこの花法律事務所では、事業者向けに顧問契約サービスを提供しており、日頃から労務全般のサポートや、社内での不正行為を未然に防ぐための体制づくりをサポートしています。また、顧問弁護士サービスの利用を検討される事業者の方向けに、弁護士が無料で面談を行っております。来所いただく形での面談のほか、オンライン面談、電話でのご説明を選んでいただくことも可能です。気軽にお問い合わせください。
▶参考情報:咲くやこの花法律事務所の顧問弁護士サービスについては、以下の記事や動画で詳しく説明していますので、ぜひご覧ください。
10.まとめ
この記事では、詐欺罪の成立要件や法定刑のほか、社内で起きる詐欺行為の事例や詐欺被害に遭った際に会社が取るべき対応などについてご説明しました。
まず、詐欺罪とは、人を騙して財産等を交付させたり、不法に利益を得たりする犯罪のことをいいます。刑法第246条に規定があり、法定刑は10年以下の拘禁刑とされています。詐欺罪が成立するためには、(1)人を騙して(欺罔行為)、(2)錯誤に陥らせることにより、(3)財産を処分させ、(4)財物の占有を自己または第三者に移したことが必要となります。
詐欺を理由とする損害賠償請求の民事上の時効については、被害者が損害及び加害者を知ったときから3年(民法第724条1項)または詐欺行為が発生したときから20年(民法第724条2項)です。一方、詐欺罪についての刑事上の公訴時効は7年です(刑事訴訟法第250条2項)。
社内で詐欺行為があった場合に会社が取るべき対応はそれぞれ以下の通りです。
(1)被害回復のための民事上の賠償請求
- ① 取引先等の関係者へのヒアリング等の調査や証拠保全を行う
- ② 本人への事情聴取を行う
- ③ 被害額についての返済方法を協議する
- ④ もし合意できなかった場合は民事訴訟を検討する
(2)刑事責任を問う対応
- ① 弁護士に相談する
- ② 告訴状を提出する
- ③ 警察との打ち合わせを行う
- ④ 告訴状が受理される
- ⑤ 犯人の取り調べ
- ⑥ 送検される
- ⑦ 検察官が起訴・不起訴を決定する
- ⑧ 刑事裁判が行われる
(3)労務面での対応
- 懲戒解雇や普通解雇、または退職勧奨により、雇用を終了させる
ただし、上記の対応について自社のみで対応しようとすると、初期対応を誤ってその後の被害回復が困難になる例が多く見られます。また、十分な手順を経ないまま解雇してしまい、重大なトラブルに発展する、よく考慮しないまま刑事告訴をしてしまい、被害回復が困難になるといった例も少なくありません。詐欺被害に遭った際は、まず弁護士に相談した上で対応について方針を決めることが大切です。
咲くやこの花法律事務所では、多くの事業者から詐欺被害に関するご相談・ご依頼をお受けして解決してきた実績があります。詐欺被害でお困りの事業者様はぜひ咲くやこの花法律事務所にご相談ください。
記事作成日:2026年6月4日
記事作成弁護士:西川 暢春



















