こんにちは。咲くやこの花法律事務所の弁護士西川暢春です。
「ある従業員が業務上横領の疑いがあるものの、明確な証拠がないのでどうすればよいかわからない」など、社内で業務上横領が発生した場合の証拠の集め方について分からないことがあり、お困りではありませんか?
横領が発生した場合、たとえ状況から犯人である可能性が高い従業員がいたとしても、証拠がないまま問いただしたり、被害額の賠償請求や解雇に進むことは適切ではありません。
証拠が不十分だと、被害額の賠償請求をしても裁判になった場合に証拠不十分で敗訴してしまいますし、横領した従業員を解雇しても後から不当解雇だと判断されるおそれがあるためです。また、証拠がないまま問いただすと、相手が犯人だった場合に証拠を隠されたり、破棄されることになります。
自社のみで対応した結果、証拠が不十分のまま次の段階へ進んでしまい、被害回復が困難になったり、かえって会社の損害が大きくなってしまう例が少なくありません。社内で横領が発生した場合は、すぐに専門の弁護士に相談し、弁護士の適切なサポートのもとで証拠集めに取り組むことが大切です。
この記事では、証拠集めの方法のほか、証拠がない場合の対応についても解説します。最後まで読んでいただくことで、社内で業務上横領の疑いがある場合の証拠収集の方法や、証拠がない場合に取るべき行動についても理解していただくことができます。
それでは見ていきましょう。
※ 横領と窃盗や詐欺は厳密には法的な扱いが異なりますが、この記事では区別する実益がないため、すべてあわせて横領と呼んでご説明しています。
暢春
横領の被害回復のためには証拠が必要ですが、証拠がないからといって全く打つ手がないかというとそうではありません。決定的な証拠がないケースでも、事情聴取で自白を引き出すなど、別の方法で被害を回復できる可能性があります。
咲くやこの花法律事務所では、証拠が乏しい横領事件において被害額の回復を実現した実績が数多くあります。証拠が不足しているために対応にお困りの事業者様は、咲くやこの花法律事務所へご相談ください。弁護士が、事務所の経験や実績を生かして被害回復のための最適な方法をご提案します。
咲くやこの花法律事務所の被害企業向け業務上横領の法律相談なら、以下のサービスサイトをご覧ください。
ー この記事の目次
1.業務上横領の証拠がない場合はどうなる?
社内で起こった業務上横領について十分な証拠がない場合、その後の対応について以下のようなリスクがあります。
1−1.民事訴訟で敗訴するリスクがある
証拠がないと、民事訴訟で損害賠償請求をした場合に敗訴するリスクがあります。実際に、状況証拠からその従業員が横領した可能性が高いというだけで訴訟を起こした結果、証拠不十分で被害企業側が敗訴してしまったというケースも少なくありません。
1−2.刑事告訴が受理されないリスクがある
証拠不十分だと犯人を刑事裁判にかけることができないため、刑事告訴が受理されないことがあります。
1−3.解雇無効と判断されるリスクがある
横領をした可能性が高い従業員であっても、確実な証拠がないまま安易に解雇してしまうと、後から従業員に訴訟を起こされ、不当解雇と判断されてしまうリスクがあります。
これらのリスクについては、次以降の段落で詳しく解説していますので、順番に見ていきましょう。
2.証拠なしに懲戒解雇や損害賠償請求をしてはいけない
本題に入る前に、まず業務上横領とは何かを簡単にご説明します。
業務上横領とは、「業務上自己の占有する他人の物を横領すること」です。よくある事例としては、集金担当者が顧客から集金した金銭を未回収だと偽り自分のものにする、経理担当者が領収書の金額を改ざんし、差額を着服する、などがあげられます。
▶参考情報:業務上横領については以下の記事で詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
社内で業務上横領が発生した際、被害回復と社内の規律維持、そして被害の再発防止のために会社は迅速に対応する必要があります。しかし、確たる証拠がないにもかかわらず、疑いがあるからといって安易に従業員を解雇したり、損害賠償請求をしてしまうと、後から従業員に訴訟を起こされ敗訴してしまうなど、かえって会社側の損害が増大するリスクがあります。
実際に、証拠不十分なまま疑いのある従業員を解雇した結果、従業員から訴えを起こされ敗訴した事例をご紹介します。
2−1.アニマルホールド事件(名古屋地方裁判所判決 令和2年2月28日)
●事案の概要
動物病院でトリマーとして勤務する従業員Aを、売上金と診療費明細書の控えを盗んだ疑いで解雇した事案です。
病院側は診療費明細書がなくなっている40日間について、全て出勤した従業員はAのみだとして、Aが売上金と診療費明細書を窃取したと判断し、解雇しました。
●裁判所の判断
裁判所は、動物病院側が提出した証拠だけでは、他の従業員による犯行の可能性や、元従業員など外部者の犯行の可能性、単なる紛失の可能性、Aの犯行に見せかけるために隠匿された可能性など、さまざまな可能性を排除できないとして解雇を無効と判断しました。そのうえで、病院側に対し、解雇後の賃金のほか、慰謝料50万円を支払うよう命じました。
この事例のように、防犯カメラの映像など、犯行の事実を客観的に裏付ける証拠がないまま解雇や損害賠償請求に踏み切ると、後で従業員から訴訟を起こされた場合に敗訴してしまい、余計に会社側の損害が拡大するおそれがあります。
社内で業務上横領の疑いが生じた場合は、できるだけ早く、証拠集めの段階から、専門の弁護士に相談することが必要です。
3.業務上横領で刑事告訴をするにも証拠が必要
犯人を解雇したり、損害賠償の請求をするために証拠が必要なのはもちろんですが、刑事告訴をする場合も同様に証拠が必要です。
証拠が不十分だと、最終的に犯人を刑事裁判にかけることができません。警察としても証拠がなければ、刑事告訴をしても捜査を始めてくれないことも多いです。
この点については、刑事告訴の段階で証拠がなくても警察が捜査して証拠を集めるべきだという考え方もあるところです。しかし、現実には、刑事告訴をする段階で、まず証拠をしっかりと集めたうえで刑事告訴する必要があります。
事情聴取等で犯人が業務上横領を認めている場合であっても証拠は必要です。犯人が犯行を認めていたとしても証拠がない場合は有罪にできないという刑事裁判上のルールがあるためです。
4.横領の証拠集めの方法
次に、業務上横領の証拠集めの方法について解説します。
社内で横領が起きた際は、証拠が隠ぺいや破棄、改ざんされるのを防ぐために、できるだけ速やかに証拠を集める必要があります。また、犯人の疑いのある従業員に気付かれないように進めることも重要です。
具体的な証拠集めの方法については横領のパターンごとに異なりますが、以下のポイントをおさえて証拠を集めていく必要があります。
4−1.犯人であることの特定
まず一つ目は、横領の犯人であることを特定できる証拠を集めることが必要です。
疑いのある従業員がいる場合は、その従業員が犯行を行ったことを証明できる証拠を確保する必要があります。
例えば、レジのお金を持ち帰るパターンの場合、単にレジの金額が不足した日と疑わしい従業員の出勤日が一致するとか、そのレジを使う従業員が疑わしい従業員だけであるといったことだけでは証拠として不十分です。
過去にレジを担当していた元従業員が侵入して犯行に及んだ可能性がないかとか、今の職場にいる別のレジ担当が犯行に及んだ可能性がないか、レジからお金を回収する際に回収者が抜き取っている可能性がないかといった点を否定することが必要です。疑いのある従業員がレジから現金を盗む様子が映った映像など、犯人がはっきり特定できるような証拠が必要です。
4−2.故意による犯行であること
二つ目のポイントとして、故意による犯行であることを示す証拠が必要です。
具体的には、犯行を複数回行ったことがわかる証拠などです。一回の犯行についてのみの証拠だと、間違えて持って帰ってしまったなど、単なるミスによるものである可能性を否定できません。しかし、複数回犯行を重ねている証拠があれば、犯人が故意に犯行を行っていることを証明することができます。
例えば、スーパーの従業員が代金を支払わずに商品を持って帰った場合、一度の持ち帰りについての証拠を確保しただけだと、うっかりレジでの会計を忘れていたと主張される危険があります。
このような場合に故意による犯行であることを示すためには、複数回、代金を払わずに商品を持ち帰っていたことがわかる証拠を集める必要があります。
4−3.横領行為を特定すること
三つ目のポイントとして、横領行為を特定する証拠が必要です。
具体的には、いつ・誰が・どのようにして横領をしたのかが分かるような証拠です。犯行がいつ行われたのか、どのような方法で行われたのか、何が横領・窃取されたのかが特定できるような証拠が必要になります。
例えば、従業員が顧客から集金した現金を会社に引き渡さずに持ち帰るパターンの場合、犯人がいつ犯行を行ったか、どの顧客から集金した現金がいくら持ち帰られたかという点について証拠を集める必要があります。
▶参考情報:業務上横領の証拠の集め方については、以下の解説動画も参考にご覧ください。
5.事例1:飲食店の横領についての調査方法
実際の横領についての調査方法はケースバイケースです。ここでは、一例として飲食店での横領行為についての調査方法を解説します。一般的な会社では経理担当者だけが小口現金を取扱うことが多いですが、飲食店では、会計のために様々な従業員がレジを利用することがあり、横領のリスクも高い傾向にあります。
5−1.防犯カメラの映像を確認する
まず、最も効果的な証拠となりうるのが、防犯カメラの映像です。防犯カメラが設置されていない場合は、防犯カメラを設置して証拠を集めることが基本になります。
例えば、従業員がレジからお金を抜き取りポケット等に入れている映像があれば、従業員が犯行を行ったと証明する証拠となり得ます。ただし、証拠としては一度の犯行についての映像だけでは不十分です。例えば、顧客から受け取った現金をそのまま従業員がポケットに入れた映像がとれた場合、一回だけでは「後からレジに入れるつもりだったが、うっかりポケットに入れたままにしてしまった」というような弁解をされる可能性があります。そのため、一定期間撮影を継続し、複数回の犯行の映像を確保する必要があります。
また、例えば後ろ姿しか映っておらず、犯行を行っている人物の顔や手元がはっきりと映っていない映像だと、犯行を特定できているとは言えないため、証拠としての価値も下がってしまいます。このような場合は、後述するレジの処理履歴や帳簿等の書類から証拠を集めることになります。
5−2.レジの処理履歴を確認する
飲食店の横領でよくある手口の一つに、レジの会計記録を削除して売上を無かったことにし、その差額を横領するといったパターンがあります。
そのようなパターンの場合は、レジの処理履歴を確認することが効果的です。特に飲食店やコンビニ等では、POSシステムと呼ばれる、精算情報をリアルタイムで記録し集計するシステムが搭載されているレジを使用していることが多く、そのシステムを利用して、精算の取消処理がされたかどうかを確認することが可能です。
短期間で何度も取消処理がされていたり、不自然な取消処理がされている場合は、横領である可能性が高いため、伝票や領収書の控えと照らし合わせて確認する必要があります。
5−3.帳簿や伝票、領収書の控えなどを確認する
飲食店の場合、領収書の金額部分を手書きにしているところも多いですが、それを悪用して横領が行われるケースがあります。そのような場合は領収書の控えや伝票が重要な証拠となります。よくあるパターンとして、例えば、料金が7,000円のところをレジでは5,000円として処理し、差額を自分のものにするような手口があります。このパターンの場合は、領収書の控えや伝票とレジでの精算金額が合致しているかを確認するといった調査が必要になります。
6.事例2:経理担当の従業員の横領についての調査方法
次に、もう1つの例として、経理担当者の横領の調査方法について解説します。
6−1.通帳や会計帳簿、取引履歴を確認する
まずは会計帳簿や取引履歴・送金履歴、領収書を確認して、不正な出金や不自然な点がないか確認することが基本です。場合によっては帳尻を合わせるために会計帳簿等を改ざんしているケースもあるため、通帳と会計帳簿を照らし合わせて齟齬がないかを確認し、不自然な箇所が無いかを調査します。
6−2.弁護士会照会を活用する
例えば、経理担当者が会社の現金や預金で私的な物品を購入していたケースの場合、領収書や引落明細だけでは証拠として不十分です。横領の事実を確実に証明するためには、具体的に購入した商品名や個数まで特定し、購入した商品が会社の業務とは関係のないものであることを示す証拠が必要です。
このような場合に効果的な調査方法の一つが、弁護士会照会(弁護士法23条の2に基づく照会)です。
▶参考情報:弁護士会照会とは?
弁護士会照会とは、弁護士の申請を受けて、弁護士会が官公署や企業などに事実を問い合わせる照会制度のことです。弁護士のみが利用できます。
弁護士照会を利用して購入した店舗に問い合わせることで、犯人が購入した物品についての商品名や個数など、具体的な購入情報を確認することが可能です。それをもとに業務に関係のある商品を購入していたか否かを確認し、会社の経費で私的な物品を購入していたことの証拠にすることができます。
▶参考情報:実際に弁護士会紹介を活用して解決した事例として以下の事例を紹介していますので併せてご参照くさい。
7.どうしても横領の証拠がない場合の対応
次に、どうしても証拠がない場合の対応について解説します。証拠がない場合の対応としては、主に以下の2つの方法があります。
7−1.事情聴取で自白させる
一つ目は、事情聴取で犯人に自白させる方法です。
横領が疑われるものの、防犯カメラの映像など、決定的な証拠がないようなケースでも、犯人に事情聴取を行い、横領の事実を認めさせる方法で解決できることがあります。
ここでは、咲くやこの花法律事務所における解決事例の中で、実際に事情聴取で犯人に自白させ、被害額を回収することに成功した事例をもとに説明します。
1.クリニックのレジのお金を横領している従業員に対し事情聴取を行い、被害額の回収に成功した事例
●事案の内容
クリニックから横領行為をしている疑いのある従業員に対する損害賠償の請求についてご相談いただいた事案です。
クリニックは状況証拠から受付業務を担当する従業員Aがレジ内の現金を抜き取っているとの疑いを持っていました。しかし、Aの横領行為を撮影した動画などの決定的な証拠がなく、加えてAが直近に退職を申し出て、その退職日が迫っていたため、カメラを設置するなどして新たに証拠を確保するのも難しい状況でした。
従業員Aが横領を認めなかった場合、被害額の回収が困難になる可能性が高いことから、回収の可能性を高めるため、咲くやこの花法律事務所にご相談いただきました。
① 弁護士による徹底的な資料の調査
事情聴取に向けた準備として、まずは弁護士がクリニックの院長らにヒアリングを行い、どのような経緯でAに疑いを持ったのかやレジの入出金の流れなどを確認しました。
そのうえで、クリニックから過去2年間分のレジの売上集計表やカルテなどの資料を取り寄せ、不自然な点がないかを徹底的に調べました。
事情聴取の場で従業員に横領を認めるように迫っても、最初から素直に犯行を認めるケースはほとんどありません。この事案においても、Aが簡単には横領を認めないことをあらかじめ想定したうえで、Aから主張されそうな言い分を崩すための資料を集める準備を弁護士が行いました。
② 返済誓約書の用意
事情聴取の際に従業員からうまく自白を引き出せた場合、後から撤回されるのを防ぐため、その場ですぐ横領した事実を認める文書に署名させる必要があります。
そこで、この事案では、事情聴取の前に、弁護士が返済誓約書(横領した金銭についての返済義務を認め、返済を誓約させる書面)を数パターン用意しました。
③ 事情聴取当日
当日は弁護士がクリニックを訪問し、従業員Aを別室に呼んで事情聴取を行いました。
まず、弁護士が証拠としてカルテを示しながら、カルテが残っているのに治療費を受け取れていない患者がいることを指摘し、従業員Aに思い当たることがないか説明を求めました。
これに対しAは「受け取り忘れたのかもしれない」などといった言い訳を重ねましたが、そこでは弁護士は特に反論することなく、最後までAの説明を聞きました。
その後、証拠資料の中から、ある特定の一週間にインフルエンザの予防接種をした患者から全く費用を受け取っていない点を指摘し、その証拠を示したところAは黙り込みました。続けて、弁護士は過去2年間の調査結果を整理した分厚いファイルを提示し、治療費の入金がないのはインフルエンザの予防接種や自由診療の報酬など、単価が高い費用のものばかりであることを指摘しました。
そのうえで、弁護士からこれまでの説明に間違いがあれば訂正するよう伝えたところ、Aは犯行を認めました。弁護士から直近2年間で横領した額を速やかに弁済すればそれ以上さかのぼって調査するつもりはないことを伝えたところ、Aはなんとか一括で支払うと答え、返済誓約書に署名しました。
●結果
面談後、無事に直近2年間の被害額全額200万円が一括で振り込まれました。
▶参考情報:この事案の詳細については以下でご紹介していますのでご参照ください。
証拠が十分にない事案で事情聴取により、本人に横領を自白させることは簡単ではありません。臨機応変な対応が必要ですが、多くの事案に共通してポイントとなるのは以下の2点です。
1.徹底的に事前調査を尽くす
調査が不十分なまま事情聴取に臨むと、犯人に言い訳の余地を与えてしまい、犯行を認めさせることが難しくなってしまいます。一度の事情聴取で犯行を認めさせるためには、あらゆる言い訳を想定した調査を尽くし、予想される言い訳に対して反論できる資料を先回りして準備しておくことが重要です。
2.相手の言い分に対してすぐに反論・追及しない
ほとんどの場合、事情聴取において従業員は自らの犯行を素直に認めようとはせず、言い訳をしてくることが多いです。不合理な言い訳をされると聴いている側は反論したくなりますが、すぐに反論せず、あえて不合理な言い訳を重ねさせることも重要です。充分に嘘の言い訳を重ねさせ、撤回できなくなったところで、それと矛盾する資料を示すことで、言い逃れする余地をなくすことができます。
暢春
事情聴取には上記でお伝えしたポイントのほかにも、質問のテクニックが必要となるため、自社のみで対応するのはなかなか難しいのが実情です。また、最初の事情聴取で自白を引き出せなければ、その後の対応も困難になるケースがほとんどです。
その意味で一発勝負という側面があり、自社でやって失敗した場合、後になって弁護士に依頼してもなかなかリカバリーができません。そのため、横領について従業員への事情聴取を検討する場合は、最初の段階で、不正事案の対応に精通した弁護士に依頼することをおすすめします。
7−2.横領以外の請求方法を検討する
横領の証拠が十分にない場面での対応方法の二つ目は、横領以外の請求方法を検討するやり方です。
横領を理由に犯人に損害賠償を請求する場合、裁判になれば賠償を求める被害者側が、横領の事実や損害の発生を立証しなければなりません。証拠が乏しいケースでは、犯人が犯行を認めない場合に立証が困難になり、請求が認められません。
そのような場合は、横領以外の請求方法を検討することも1つの方法です。ここでは、咲くやこの花法律事務所の相談事例のうち、会社法に基づく請求を行うことで被害額を回収することに成功した事例をご紹介します。
1.EC通販会社で在庫品を横領していた取締役から被害額を回収することに成功した事例
●事案の概要
会社が所有するバッグや財布などの在庫品を横流しして転売し、利益を得ていた取締役に対し、咲くやこの花法律事務所が会社の代理人として、損害賠償請求を行った事案です。
この事案の会社の取締役であったAは、この会社でしか取扱いのないバッグをインターネット上で転売していました。Aが会社の在庫品を横領して横流ししている疑いは濃厚でした。ただし、Aがそのバッグの買付けを担当していたため、Aが自費で商品を購入することが可能な状態でした。そのため、Aに横領の疑いを指摘しても、「自分で購入したものを販売しただけであって、会社の在庫品には手を付けていない」などと反論される可能性がありました。
① 会社法に基づく請求を行った
この事案では、Aが会社の在庫品を横領したことを証明できる客観的な証拠がなかったため、Aが横領を認めなければ立証が困難になるおそれがありました。そのため、民法ではなく、会社法に基づく損害賠償請求を行うことにしました。
会社法では、取締役が会社の利益を犠牲にして自分の利益を優先することを防ぐために、会社の事業の部類に属する取引(競業取引)をしようとするときは、株主総会で承認を受けなければならないというルール(会社法第356条1項1号)を設けています。
このルールに違反した場合、取締役は、会社に対して損害を賠償する責任(取締役の任務懈怠責任)を負います(会社法第423条)。
今回のようにAが会社の在庫品をインターネット上で販売する行為は、その商品が横領したものか自費で購入したものかにかかわらず、競業取引に該当します。Aは株主総会の承認を受けずに競業取引をしていたため、任務懈怠責任を負います。そのため、在庫品を横領した証拠がなくても、Aに対し責任を追及することが可能になります。
② 弁護士から通知書を送付した
弁護士が民法と会社法に基づく請求を記載した通知書を作成し、内容証明郵便でAに送付しました。
●結果
弁護士からの通知書の送付後、Aはすぐに通知書で請求した金額を全額弁済しました。
▶参考情報:この事案の詳細については以下でご紹介していますのでご参照ください。
この事案のように、証拠不十分のために「横領」としての請求が難しい場合であっても、他の法律を用いれば解決できることがあります。
8.証拠が無いときはまず弁護士に相談を!
横領の証拠が無いからといって簡単に対応をあきらめてはいけません。ここまでご説明したように、たとえ証拠が不十分な場合であっても、弁護士に相談することで、新たに証拠を確保したり、別の方法で損害賠償を請求できる可能性があります。
社内で横領が起きた際に対応せず放置してしまうと、再度の犯行による被害額の増大だけでなく、社内の規律がうやむやになり、別の従業員によるさらなる不正を招くおそれもあります。
横領の証拠がないときも、まずは社内不正事案の対応に精通した弁護士に相談して、取れる方法がないか検討することが必要です。
9.咲くやこの花法律事務所の横領に関する解決実績
咲くやこの花法律事務所では、業務上横領による被害の回復について、企業のご相談者から多くのご依頼をいただき、証拠が乏しい事案であっても、着服された金銭の回収を実現してきました。
以下で、咲くやこの花法律事務所の解決実績の一部をご紹介していますのでご覧ください。
▶参考情報:着服・横領事件に関する解決実績はこちら
10.業務上横領に関する相談を弁護士にしたい方はこちら【被害企業向け】
最後に、咲くやこの花法律事務所の弁護士による企業の横領被害に関するサポート内容をご紹介します。
咲くやこの花法律事務所の業務上横領に関する被害企業向けサービスについては、以下の動画でサポート内容や強み、実績などをご紹介していますので、あわせてご参照ください。
10−1.業務上横領による被害の回復に関するご相談
咲くやこの花法律事務所では、企業の業務上横領の被害回復に関するご相談をお受けしています。
レジの現金の盗難や不正な経費請求、商品の横領など、業務上横領全般についてご相談を承ります。業務上横領でお困りの方は咲くやこの花法律事務所にご相談ください。
●初回相談料:30分5,000円(税別)
10−2.横領の証拠集めに関するご相談・対応
咲くやこの花法律事務所では、横領の疑いがあるが十分な証拠がないという場面の対応や証拠集めに関するご相談も承っています。この記事でもご説明したように、証拠がない場合も、専門の弁護士に依頼すれば解決できる例があります。証拠がなくて対応に困っている場合も、咲くやこの花法律事務所へご相談ください。弁護士が、事務所のこれまでの経験を生かして、被害回復のための最適な方法をご提案します。
●初回相談料:30分5,000円(税別)
10−3.顧問契約サービス
横領への対策として最も重要なことは、社内で横領が起こりにくい社内体制を作ることです。
咲くやこの花法律事務所では、事業者向けに日頃から労務全般をサポートする顧問弁護士サービスを提供しています。弁護士が、事務所の実績・経験を生かして社内で横領が起こりにくい体制づくりをサポートします。顧問契約を利用していれば、もし横領が起きてしまった場合も、会社の実情に詳しい弁護士が即座に対応することで、被害を最小限に抑えることが可能です。
▶参考情報:咲くやこの花法律事務所の顧問弁護士サービスについては、以下の顧問弁護士サービスサイトで詳しく説明していますので、ご覧ください。
11.まとめ
この記事では、横領についての損害賠償請求や解雇、刑事告訴の場面における証拠の重要性や、証拠集めの方法、証拠がない場合の対応などについて解説しました。
横領についての証拠を集める際は、以下のポイントについて証明することのできる証拠を確保することが必要です。
- (1)犯人であることの特定
- (2)故意による犯行であること
- (3)横領行為を特定すること
また、横領にはさまざまなケースがあるため、事案に応じて適切な調査方法を選択することが大切です。
例えば、飲食店の横領については防犯カメラやレジの処理履歴の確認といった調査方法、経理担当者による横領については通帳や取引履歴の確認、弁護士会照会の利用などの方法を取ることが考えられます。
どうしても証拠がない場合は、事情聴取により自白を引き出したり、横領以外の請求方法を検討するやり方もあります。
咲くやこの花法律事務所では、横領被害事件について多くの事業者様からのご相談をお受けして解決してきた実績があります。横領被害でお困りの事業者様はぜひ一度ご相談ください。
12.【関連】横領に関するその他のお役立ち記事
この記事では、「業務上横領の証拠がない場合はどうする?対応方法について詳しく解説」について、わかりやすく解説しました。以下では、横領に関連するお役立ち記事を一覧でご紹介しますので、こちらもあわせてご参照ください。
・着服とは?横領との違い、意味や事例について弁護士が詳しく解説
記事作成日:2025年1月21日
記事作成弁護士:西川 暢春